くしゅっ、と可愛らしいくしゃみが漏れた。

「誰っスかー?」

 ティーダが茶化すようにベースのリビングを見回すと、椅子に座ってゆったりとしていたセシルが苦笑を浮かべた。

「御免、僕。……昨日エルフ雪原に行ったから身体が冷えちゃったかな……こっちの方があったまるかも」

 呟いた彼の姿が、瞬きの間に暗黒騎士に変化した。

 重厚で肉厚そうな漆黒の鎧に、クラウドがコトリと小首を傾げる。

「そっちの方が温かいのか?」

「身体全体が覆われているからね」

 鎧の向こう側から、ほんの少しセシルのくぐもった声が響いた。

 どこからかガタッという音がした。

 何ー? と再びティーダがリビングを見回すと、今度はティナが椅子を引いて立ち上がっていた。

「ティナ? どうしたの?」

 いつものように隣にいたオニオンナイトが優しく尋ねる。

 ティナは暗黒騎士となったセシルの肩にそっと触れた。

「あの、ね、セシル」

「何だい、ティナ?」

 コスモス陣営で紅一点、身も心もまさに天使と呼ぶに相応しい、愛らしい少女の問いかけにセシルは柔らかく聞き返す。

「良かったらでいいの。暗黒騎士の姿、解いてくれるかしら」

「うんいいよ」

 全く問い返す事無くセシルは即座に鎧を解いた。パラディンの姿に変わる。

 次の瞬間に起きた出来事にティナ以外の全員が目を見開いた。

「えいっ」

 と、ティナがセシルに飛びついたのだ。

 驚きつつもセシルは、流石は妻帯者というべきか、慣れた動作で抱き留めた。

「ティナ!?」

「ティナちゃん!?」

 オニオンナイトとジタンが半ば悲鳴に近い声を上げる。

 するとティナはセシルから一旦身を離すと、両手で自分のマントの裾を摘み、そのまま両腕をセシルの肩から首へと回した。

 ぎゅうっとセシルを抱き締める。セシルの身体にふわりとティナのマントが覆い被さった。

「ティナ……?」

 周囲から立ち上る殺気は取り敢えず無視しつつもティナの唐突な行動への驚きは隠せず、どこか幼くセシルが目をパチクリさせると、視界の中でティナが淡く微笑んだ。

 まさに天使のような朗らかさで、

「こうすれば、温かい?」
 確かに防寒と防御を兼ねたマントに包まれると、少し冷えていた身体の芯までもじんわりと温もるような心地良さが広がった。

 何より、こうして抱き締めてきてくれるティナの心が、とても温かく感じる。

 うん、とセシルが気の緩んだ笑みで頷くと、がっしゃんがたがたと金属が擦れ合うような音が響いた。

「そうか、では私も温めてやろう」

 ティナとは別方面から、むぎゅうと何かが押し寄せ密着してくる。またふわりと風が緩やかに動いて、セシルは別のマントが重ねるように覆い被さってきた事を悟った。

「ライト?」

 意外とお茶目とは知っていたけど、とセシルがまた驚いていると、

「ぼ、僕も!」
 
 今度は真正面からオニオンナイトが突進してきた。セシルは危なげなく彼の身体を受け止める。

 オニオンナイトもティナと同じようにマントの裾を摘み、セシルに抱き着いた状態のまま、マントの裾をセシルの方へ引っ張り、マント全体で自分とセシルを覆うようにくるんだ。

「俺も俺もーっ!」

 そんな楽しそうな状況でこの男が騒がないはずがない。同じようにマントを装備しているバッツがオニオンナイト以上のタックルを仕掛け、セシルはまたそれを受け止めた。

 四人がきゅうきゅうぎゅうぎゅうと引き締め合う。

「わ、ちょ、ライト、鎧が痛い!」

 ティナとバッツは衣服自体は薄手であり、オニオンナイトも鎧の尖った部分が当たらないよう考慮してくれている。

 が、ライトはお構いなし、遠慮なしにいつもの無表情でぎゅうぎゅうとセシルの身を抱き締め、

「遠慮するな、――さあ来たまえフリオニール」

「俺ぇっ!?」

 いきなり矛先を向けられたフリオニールが素っ頓狂な声を上げる。

「いいなあぁフリオ、確かに俺らマント持っていないしな〜っ」

 ティーダが心底羨ましそうな声を上げる。

 その後ろでジタンはにこにこニマニマと笑い、スコールは呆れたように軽く首を振っている。

 クラウドはというと、

「あ! 狡いっス、サードフォームに着替えて!」

 見た目は無表情ながらも割とノリノリなステップを踏んでセシルの元に突進していった。

 いいなぁいいなぁと腕をぶんぶんと上下に振るティーダの隣で、スコールがもたれかかっていた壁から背を離し、キッチンに向かう。

 ややあってから、セシルのマグカップを持って戻ってきた。

「セシル」

 スコールの声が響く。

 わあわあきゃあきゃあと揉みくちゃになっていた、未だにおろおろと戸惑うフリオニールを除いたマント組がぴたりと止まった。

 スコールはマグカップを差し出す。

「飲め」

「あ……生姜湯? 有り難う」

 ぴっとりと密着している皆からの視線を浴びながら、セシルはゆっくりと生姜湯を飲んだ。

 白皙の彼の美貌に、ほんのりと優しい熱が差す。

「……あったかい」

 セシルはふっと笑みを零した。

 温かくて、優しくて、とろけるようだ。

「ねえ、みんな」

 スコールと目が合う。マグカップを差し出すと、彼はそれを受け取って机の上に置いた。

 セシルと触れ合っているマント組が、何かうずうずした雰囲気を作り出している。

「もっと、あっためて欲しいな」

 勿論と言うようにマント組がぎゅうぎゅうと抱き着き、今度はティーダとジタンも歓声を上げて突進してきた。

 見守る側に徹しようとしたスコールも、バッツに腕を強引に引っ張られて輪に加わる。

 きゅうきゅうと暑苦しい熱を感じながら、皆を抱き締め返すべくセシルは精一杯に腕を伸ばした。

  


 

 
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