「理想の身長差は15センチって、これ結構どの雑誌でも見ますよね」

「本当なのかな〜?」

「はっ、下らねえ……」

「まあ確かに男の方が背が高いというのが一般的みたいだが」

「少し科学的な根拠を調べてみましょう」

「そうだね、何で言われているか、ちょっと知ってみたいよね」

 0組の教室に戻ると、レムを含めた女子組がやんややんやと何か喋り合っていた。

 ちょうど目が合ったデュースに小首を傾げてみせると、デュースが机の上に広げられた雑誌を持ち上げ、掲げて見せてくれた。

「ちょうどみんなでこの雑誌を読んでいたんです」

「……カップル特集……ねえ」

 内容はありきたりなものだった。

 自分を分析してこのタイプの男性がぴったりと男性もタイプ別に表記されている占いコーナー、異性を甘く惹きつける香水の特集、今年の流行で異性がくらっとくるファッション、などなど。

 いかにも年頃の女子が好みそうな内容だ。

 魔導院にいるのは大半がそういう年頃の候補生であるため、サロンやリフレッシュルーム、クリスタリウムの雑誌コーナーにもこの手の本は置いてある。

 デュースが持っている本には貸し出し用のシールやタグは貼られていない。恐らくレム辺りが買ってきたのだろう。

 0組とは付き合いが長いが、彼女達がこの手の雑誌を読んでいるのを見たのは、これが初めてだから。

「ケイトは、この『理想の身長差』についてどう思いますか? 何か根拠などは知っていますか?」

 クイーンが指先で眼鏡を持ち上げ、いかにもクイーンらしい問いを放ってくる。

 え、とセブンが狼狽え、あーあとサイスが軽く首を振った。

 ケイトと恋人同士として付き合っているエイトは、この身長や身長差といった話題をひどく気にしている。

 そのため彼と付き合っているケイトの前でもこのような話題は出さないのが0組の暗黙のルールだった。

 クイーンには二人をけなすつもりなど微塵も無い。本当に純粋に探究心で尋ねているだけだ。ただ今回は近くにエイトもいないし、探究心が上回ってしまったらしい。

 一方のケイトは、表情をあまり崩さず、少し黙って考え込むような素振りを見せた後、唇を開いて答えた。

「あたしとエイトはこの理想の身長差は満たしてないけど、むしろ今の方が満足かな。いや、エイトが身長が伸びても別にいいんだけど。今の方でもいいっていうか」

「? どういう事?」

 レムが尋ねる。

 ケイトは教室の扉の方を見た。そこにちょうどエイトが戻ってくる。途中で会ったのか、ジャックやエースも一緒だった。

「エイト、こっち」

 ケイトがちょいちょいと手を振る。何だ、とエイトが素直に歩み寄る。

「もうちょいこっち」

 ケイトはなおも手招きをする。エイトの顔が赤くなった。ケイトの更に近くに寄ると、互いの身体が触れ合う。

 エイトの手が自然な動作でケイトの腰に回される。まさに抱擁の直前だ。

 0組の大部分の人数が揃っている教室での二人の行動にデュースとレムが顔を真っ赤にし、セブンは更に狼狽え、サイスは呆れたように首を振る。

 エイトがケイトを抱き寄せようとする――直前、ケイトが動いた。

 顎を上に向け、不意に視線が重なって軽く目を見開くエイトの唇に、自身の唇を押し付ける。

 舌が絡むような薄く小さい水音が響き、唇を淡く吸ってケイトの唇が離れた。

 ケイトとのキスで顔が真っ赤になったエイトがぽやぽやと陶酔する――が、斜め後ろにいたジャックの口笛でハッと我に返った。

 掌で唇を覆い、顔の熱を冷ますように何かを話そうとする。しかし舌が上手く回らないのか、声は出ても言葉として紡げない。

「わざわざメンドーに背伸びしなくても、あたしからキスできるから。したいって思った時に。だからこれでいいかな」

 と、きっぱりと放たれたケイトの言葉に、レムとデュースが歓声を上げ、ジャックとエースが拍手をし、セブンに凄いなと呟き、サイスがついには背を向け、クイーンが成程と言いながらメモを取った。

 あまりに堂々とした恋人の姿にエイトはちょっぴり泣きたくなったものの、でもそういうところも好きと改めてときめいたのだった。




 

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