次のミッションまで二、三日の間がある自由時間。
授業を終えて教室を出たシンクは魔導院内を歩いていた。
「これからどうしよっかな〜」
エースはチョコボ牧場に。デュースはサロンで一休み。ケイトはマザーに会いに行った。
サイスは魔導院の外に出てモンスター狩り。セブンはサイスに付き合うとの事。
エイトは闘技場で模擬戦闘。ナインはこれからクイーンと一緒にクリスタリウムで勉強するらしい。
ジャックはリフレッシュルームで食事。キングは裏庭へ行っていたから、きっとあそこのベンチでゆったりするのだろう。
マキナとレムは多分テラスだ。
シンクは今日、チョコボを見に行く気にも、サロンやリフレッシュルームや裏庭に行く気も、モンスターを狩る気も模擬戦闘を行う気も、何となく起きなかった。
テラスに至っては論外だ。あの二人を邪魔をする気は無い。
昔は仲間がいるという理由だけでついていったが、流石に成長すると、一人で動いて一人でのんびりしたい時もある。
それをみんな理解し合っているからこその、自由で個性の強い0組だ。
マザーは先日に会ったから今日はケイトに譲ってあげたい。きっと今頃、ケイトはマザーに甘えているだろう。
クリスタリウムで読書する気にもなれない。というか、多分行ってクイーンに見つかったら一緒に勉強させられる。
「どうしよっかな〜……」
手持無沙汰で暇だ。暇なら戦って力を付けておこうかな、とも思うが、どうせのんびりできるならのんびりしておきたいという気持ちもある。
何となく思いついて、スタート地点とも言える0組の教室に戻る。
誰もいないと思いきや、一人だけいた。
綺麗な金髪を伸ばした男の子。昔から綺麗な顔をしていたが、成長するにつれて身長も高くなり、何だか大人びた口調をするようになった幼馴染み。
「トレイ」
カツ、カツ、とローファーの足音を立てながら彼に近づくと、分厚い辞書のような本を読んでいた彼は顔を上げ、くる、と首を回して、穏やかに微笑んだ。
華奢なエースとも、快活なエイトとも、明るいジャックとも、無骨なナインとも、落ち着いたキングとも違う、穏やかで優しい笑み。
「どうしたんですか?」
「ん〜? ただ何となく教室に戻ったら、トレイがいたから声かけただけ〜」
「そうですか」
「何を読んでるの?」
「ああ、朱雀領に出没するモンスターの大全です」
トレイは本を机の上に置いた。栞を頁に挟んで本を閉じた。
一瞬、伸びやかな沈黙が生まれる。
穏やかに微笑むトレイに、あれ、とシンクは小首を傾げた。
「……トレイ、本、読まないの?」
てっきり読書の続きを始めると思っていたシンクはきょとんとして尋ねた。
するとトレイは心外そうに肩を竦め、
「本を読みながらなんて、不誠実ではありませんか」
つまりは、本よりも貴女を優先する、と。
気障と言うには、肩を竦める動作にわざとらしさが無い。
本当に彼はそう思っているのだ。
「……ふ、ふふ、ふふふ」
幼馴染みで、兄妹で。そう思っていた彼からそんな事をされると、無性にくすぐったく感じてしまう。
でも、嫌な感じはしない。
「じゃあ〜、今日出た課題教えて?」
「構いませんよ。ただし、ヒントだけです。答えは教えませんよ」
「ケチ〜」
それだけの会話で何故か嬉しさが込み上げてきて、シンクはくすくすと小さく笑った。
あとがき、というものを書いてみます。
大好物のトレイ×シンク初書きです。
私の中でシンクは精神年齢が物凄く大人びていて、幼馴染みのような妹のような存在を恋愛感情として好きになってもそれをあっさりと受け入れてしまうような印象があります。
割と自分の感情に素直……というよりは、聡いし頭がいいから、逆に抵抗無く飲み込めそうな。
そんな感じです。