彼がいなくなって、結構な時間が経った。
その間、色々な事があった。
彼が死んだ理由。
いなくなった理由。
色々と考え込む私達の元に彼の親戚だと名乗る人から連絡が来て、近日中に引き取るので彼の荷物を纏めて欲しいという要望が来た。
今まで知りもしなかった人からの上から目線の態度に腹が立ったけど、親戚の人が荷物を引き取るのは当たり前の事だから、応じなきゃいけない。
私と、アイギス、風花、順平で、彼の荷物を片付け始めた。
彼の部屋には物は少なかった。
備品の冷蔵庫とテレビとベッドとテーブルとパソコン。それに教科書とノート。
冷蔵庫を開けると、中には一つだけぽつんと、何故か柿の青い木の実が入っていた。
あとは大半が本で、残りはお金が入った財布や、少し大きめの箱。
特に何も考えずにそれを開けると、中には色々な物が詰まっていた。
手作りチョーカー。イヤホン。バイクのキー。100円ライター。スポーツテープ。寄せ書き。ビーズの指輪。巾着袋。感謝状。ネームプレート。車のキー。ボロボロのノート。焼け焦げたネジ。
そして、ストラップのついた携帯電話。
彼の遺したもの。
彼がここで残していったもの。
私はふと思った。
私はもうだいぶ吹っ切れたけど、アイギスとも仲直りできたけど、でも、彼はどうだったんだろう。
彼にとっては、十年前のあの日から、この町に再び来て、そして終わってしまった、唐突な人生。
彼は、どう思っていたんだろう。
自分の人生。
終わり方。
どうだったんだろう。
私達は、彼に守ってもらった。
私も、彼に救われた。
付き合う時、私の方から好きって言ったし、彼とはキスもしたし、その……身体も重ねた。その時も彼は優しかった。
無口だったけど、欲しい言葉はちゃんとくれた。
自惚れかもしれないけど、好き合っていた自信はある。
ちゃんと両思いだった。
彼の方も、私を愛してくれていた。
なら、私は、彼に何かしてあげられたのかな。
「……ねえ」
携帯電話に、ストラップに指先で触れてみても、答えは返ってこない。
何も。
だけど、あの時に決めた。
彼が見ているんだから、尻尾巻いて逃げられるわけがない。
だから。
「行きますか」
部屋の窓から陽光が差し込む。
携帯電話からそっとストラップを抜き取って、ゆかりは段ボール箱の一番上に、携帯電話を置いた。
――――人を愛するって、理屈じゃなくて、本能なのね。
感じて、得て、心にきちんと記憶したよ。
有り難う。愛する人。
貴女との恋は、最初で最後の、全力で貫いた恋でした。