奏が封印のくびきになってから、数ヶ月くらいの時間が経った。
永遠という厄介な概念があるこの空間では、時の流れなんて大した意味を持たない。
僕にとっては特にそうだ。
彼女と一緒にいられるのだから、この時間は永遠であって欲しい。
「ねえ、綾時」
「何だい?」
奏は、もう一人の自分とも言える存在、オルフェウスと、床一杯に広がっている宇宙の映像を覗き込んでいた。
まるで部屋のベッドでそうするように寝そべる奏の横にいるオルフェウスも、正座を崩した子供のような座り方で床の下の光景を覗き込んでいる。
その二人の背後に浮かんでいるのはメシアだ。
奏の周囲には他にも、胡坐で座っているスルト、武器を磨いているジークフリートにトール、ふよふよと浮かんでいるサンダルフォンにコウリュウなど、かつて奏が宿していたペルソナ達が浮かんでいる。
だいそうじょうはただ浮遊しているけど、アリスは他のペルソナ達と一緒にお茶会を開いていて、ベルゼブブは遥か上空をのんびりと飛び回っている。
何とも滅茶苦茶な光景だ。
「今ね、月を見ていたの」
トントン、と奏は人差し指で透明な床を軽く叩く。
その透明な床の下には、白く輝く巨大な衛星の姿が映っていた。
「凄く綺麗だね」
「ね」
奏が淡く微笑んだ。
彼女は本当に楽しそうに月を見ている。
床の下に広がる光景は、一種の宇宙だ。
宇宙って言い切れないのは、宇宙だって断言できないから。
何故なら僕にも分からないのだ。僕と彼女が今いるここは一体どこなのか。
天国なのか、はたまた世界のすぐ傍にいるニュクスの中なのか。
分からない。
けど、別にそんなのはどうでもいい。
「あ……」
奏の声がそっと漏れる。
僕は淡く息を呑んだ。
月の影。斜め後ろに、宇宙の闇に包まれ抱かれる、海と大地の惑星が見える。
彼女が守った世界だ。
思い思いの動きを取っていたペルソナ達がぴたりと止まる。
僕もそっと彼女の横顔を見た。
奏は――微笑んでいた。
「頑張って、ね……生きる事、生きていく事……」
指先で、遥か遠くの地球の輪郭を描き、掌でそっと包み込む。
かつて世界を守った彼女は、もう生きていく事ができない彼女は、星の生命の全てに向かって微笑んでいた。
「頑張れ、みんな……」
もう会う事はできない仲間へ、祈るように、そっと。