ルビーは恍惚とした眼差しでレッドの瞳を見つめた。
レッドの瞳は美しい。
宝石よりも、絵の具よりも、自然よりも美しい。
原点にして頂点。
自分達の物語が始まった最初のきっかけ。

「流石はレジェンド。美しい瞳だ」
「……」

レッドは溜息をつくものの、膝の上のピカチュウの頬をぐにょーんと伸ばしたりむにゅむにゅと捏ねたりするだけで、特にルビーの行動を止めたりはしない。
その背中からは、もう面倒だから好きにさせてやろう、という哀愁のようなものが漂っていた。

「無口レッド先輩……」

その哀愁の背中を見てこっそりと溜息をつくのは、ルビーの恋人のサファイアである。
最初はルビーの関心と目線を奪うレッドにほのかな寂しさと嫉妬心を向けていたが、もう数十分以上もたっぷりとルビーに見つめられ、ルビーの独り言をひたすら聞かされているレッドに、サファイアは次第に同情と不憫さを感じようになっていた。
いくらルビーが美男子とはいえ、数十分以上も同じ体勢のままじっと見つめられ、ぽつりぽつりと唇から漏れる独り言を否応なく聞かされれば、誰でもげんなりとするはずだ。
しかしレッドはそういった悪感情を少しも表情に表す事無く、無言で背中を丸め、膝の上のピカチュウを愛でる事で何とかやり過ごそうとしている。
単に黙って立ち去ればいいのに。
それができない、あの件のレジェンドは、立ち上がって去ってもルビーが追ってくる事を予見しているのか、それを恐れているのか。はたまた生温い優しさで後輩からの尊敬と陶酔を受け止めるつもりなのか。

「レッドの奴、何かあの後輩には優しくないか? 甘やかしてないか? 何か嫉妬するんだが」

面倒臭いのが隣にもう一人。
サファイアの言うところの『無口レッド先輩』の幼馴染みで、彼に思いを寄せる、いわば『饒舌なグリーン先輩』だ。
先程から白いハンカチでも噛み締めていそうな形相でルビーとレッドの近すぎる距離を悶々と見つめている。
カオスったい。
いつになったら終わるのだろう。ルビーの独り言が終わるまでか。しかしルビーは生身のレジェンドに出会えた感動と衝撃で、あと三十分くらいは独り言が止まりそうにない。


 


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