本来の世界に戻って行った自分を見送ると、世界は途端に静寂に包まれた。

 耳が痛むほどの静けさ。

 寂しい。

「……貴女も」

 言って手を翳すと、目の前に少女が現れた。

 クリスとは全く異なる、赤と白が基調の服を着た少女は、目を閉じて待っている。

 クリスは少女の胸元にそっと触れた。

「行ってらっしゃい。貴女の世界へ」

 少女がパチリと目を開ける。

「気を付けてね。でも大丈夫。ポケモンがいるから」

 晴れた空のような笑顔でクリスが言うと、少女も満面の笑みで頷いた。

 気合を入れるように頭の帽子を被り直すと、パッと翻って去って行く。

 楽しそうなスキップで駆け、己の世界へ飛び込む。

「……行ってらっしゃい」

 祈るように呟くと、不意に視界の端に光が差した。

 びくんと心臓が震えるほどに驚きながらそちらを見ると、どれだけ眩しくても目を焼かない優しい光が広がっていた。

 光の中に見える景色には見覚えがあった。

 エンジュシティ。

 その頭上を、あの虹色のポケモンが舞っている。

 クリスが目を瞬かせていると、不意に腕が差し伸べられた。

 光の傍らに、佇むようにあの少年がいた。

「君は……!」

 旅をしている最中は会えなかった存在。それでも、きっと生まれた瞬間から感じていた、もう一つの存在。

 ポケギアとモンスターボールを携え、リュックを背負った少年が笑う。

 快活に、あのゴールドとそっくりな笑顔で。

 いや、彼もゴールドなのだから、そっくりという表現は失礼だろう。

 良く似た、けれど柔らかさを伴った笑顔だった。

「行こう!」

 まるで、旅に促すように。

 少年の斜め後ろにいる赤毛の少年が、待ちくたびれたように先に光の中へ入って行く。

「……うん!」

 クリスは彼の手を取った。

 ゴールドと共に光の中へ飛び込む。

 エンジュシティの焼けた塔で、かつてホウオウによって蘇った伝説の三匹のポケモンのように。

 もう一度、三人の旅が始まる。

 


 


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