「わかれよ」


「やだやだやだやだ、やだやだ兵ちゃん! 俺、別れたくないし、わかりたくもない! 何で兵ちゃんと別れなきゃいけないの!? 何で兵ちゃんと別れる未来をわからなきゃいけないんだよ!」


「何でわかんないのこの馬鹿旦那! お前は馬借の後を継ぐんだろ!? 僕は女じゃないから結婚することも子供を産むこともできない、だからここからは一緒に行けないんだよ! わかれよ!!」


「家業は清八に継がせる! 俺は兵ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だ、兵ちゃんとずっと一緒にいる! 世間が結婚を認めなくても俺達だけが認めればいいし、子供なんていなくてもいい! 俺は兵ちゃんと一緒にいる未来を選ぶ!」


「阿呆か! ……そんな結末、許されるわけないだろ!?」


「誰に!? 誰に許されないって言いたいの兵ちゃん!? だってこの結末も未来も受け止めて受け入れるのは他ならぬ俺と兵ちゃんだよ!? それなのに誰かの許しが必要だって言うの? 俺達のことなんか何も知らない誰かさんにさ!!」


「……わかれよ馬鹿。僕は、さ、ねえ団蔵。……馬借の親方である親父の後を継ぐんだって、一生懸命に馬術の練習に励んでたお前が好きなんだ。僕が好きなお前は、自分の夢を追いかけてまっしぐらに突き進むお前なんだよ。だから僕は、お前の夢を潰すような真似はできない」


「けど兵ちゃんは俺のこと好きなんだろ!? 自惚れじゃない、俺だって兵ちゃんのこと好きだからわかる! わかってた! だって兵ちゃん、俺が馬術の練習ばかりで逢引できなくても何も文句を言わなかったし、嬉しそうな顔で見守ってくれていたから……!」


「そこまでわかってるんだったらわかれ。……お前はお前の夢を貫け。中途半端に捨てるな。お願いだから、僕が好きなお前が、僕への恋慕で潰されることがないように、夢を叶えてくれ」


「! う……」


「御免な、卑怯な物言いで。本当に御免。だけどお前は夢を叶えて、嫁さん貰って子供を授かって、幸せに暮らしてくれ」


「……兵ちゃん、俺は兵ちゃんのこと好きだよ。本当に。ずっと一緒にいたい、夫婦みたいに寄り添って、ずっとずっと離れたくないって思うくらいに。だから俺は、お前が好きな俺のことを潰してでも、兵ちゃんを……」


「……団蔵」


「……何で。好きだから一緒にいる、それだけでいいじゃんか! でも兵ちゃんは、今ここにいる俺より夢を叶えた俺の方が好きだから、だから今の俺を捨てるのか!?」


「違うってば! ――僕の実家は武家だから、どのみち見合いを押し付けられる! 僕も女を抱いて子供を授かるんだ、そうならざるを得ないんだよ! たとえお前と逃げたとしても……加藤村に迷惑がかかってしまう。そんな未来は嫌だ。だったら僕はお前に嫌われようが憎まれようが、早いうちに僕自身が穏便な方の未来を選び取る!」


「俺を捨てて、俺への愛を捨てて!?」


「捨てるとは言ってないっての! 別れるって言っただけだ! ――想うだけなら自由だろ!?」














「……兵ちゃん……御免。兵ちゃんに、嫌なこと言わせて」


「何だ、わかってたんじゃないか。馬鹿旦那のくせに。……こうする方がいいって」


「うん。……俺さ、毎日兵ちゃんに語りかけるから。手紙は出せなくても、心の中で。ずっとずっと想ってる」


「僕もだよ。……二人でいる未来は諦めなきゃいけないけど、でもお互いに想い合うことはできる。……忘れないで? 僕の心は団蔵のものだから」


「俺の心だって、兵ちゃんのものだよ……!」


 

 


 




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