四郎兵衛は容量が良い。
ぼうっとしているように見せかけて、実は意外と周りを良く見ている。
今も三郎次に声を掛けて、何か話している。三郎次は両腕に荷物を抱え込んでいるから、大方、半分持ってあげると言っているんだろう。
と思いきや、四郎兵衛はその荷物の大半をひょいっと取り上げた。危なっかしくふらふらと歩いていた三郎次とは違い、しっかりとした足取りで廊下を進んでいく。
慌てて三郎次がその後を追いかける。控えめに話しかけるけど、四郎兵衛はへらへらと笑っている。
腕に抱えている荷物で先の視界が塞がれている状態のはずなのに、壁にぶつかりも縁側に落ちもせず、非常に安定した体勢で行く。
ああ。
そうやって三郎次も、四郎兵衛に惚れるんだろうな。
案の定、少なくなった荷物を抱えて四郎兵衛の斜め後ろを歩く三郎次は顔を赤くしている。
――ふん。
四郎兵衛は、誰にでも優しいんだ。
だから惚れたって損するだけだぞ、三郎次。
――そう。
惚れたって、損をするだけなのだ。
誰にでも優しい、あんな奴。
「左近!」
その四郎兵衛の声が聞こえてきた。左近が今まで遠巻きに見ていた廊下ではなく、もっと近い、斜め後ろから。
少しぎょっとして振り向く。まさかと思っていたが、本当に四郎兵衛がいた。
「そんな所でぼうっとしてどうしたの?」
きょとんとした顔で、ことりと首を傾げる。
お前を見ていたんだよ、とは言えず、左近はぽつりと、一言だけ言った。
「……ばーか」
「ええっ!?」
案の定、がーんとショックを受けた顔をする四郎兵衛。
その単純さだけ見れば、左近の良く知っている四郎兵衛なのに。
――何か最近、お前が怖いよ。
だってさ、
――何か、俺の知らないお前みたいで。
ときめく
知らないお前をどんどん知っていくのが、何だかとても怖いんだ。
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