恋でも何でも、有言実行、不言実行の方が勝ちに決まってる。
だから俺は実際に行動に出た。
委員会以外の時間帯でも見かけたら必ず話しかけ、自慢話も黙々と聞き続けた。
そしてあの人が自慢話を一通り喋って満足した後、愛の言葉を囁いた。
「滝夜叉丸先輩は本当に凄いですね。美しいし素敵だし、俺なんかの手には届かない」
そんなことを言うと滝夜叉丸先輩は決まって困惑した表情を浮かべていた。
褒められたのならともかく、愛を囁かれた場合はどう返事をすればいいのかわからない、といった感じに。
その奥ゆかしくて初な反応が可愛くて、俺は何度も囁き続けた。
朝の挨拶をした後。
昼にすれ違った時。
夜にお休みを言う前に。
耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「あんたが好きですよ」
と。
最初はあの人は真っ赤な顔をした。時には男に向かって何を言うと怒られた。
けれど一ヶ月が過ぎる頃には可愛らしく項垂れて大人しく俺の睦言を聞くようになり、更に三ヶ月を経た頃には夜這いに来た俺を受け入れてくれるようになった。
俺はこーやって時間も手間も愛情もかけたんです。
だから、ねえ。
「他の女と遊びまくって気を惹こうとする、なんて幼稚なやり方をするあんたが俺に敵うわけないでしょ」
滝夜叉丸先輩は優しくて柔らかくて温かい愛を好むんだ。
あんたみたいな暴力的で押し付けがましくて、その上、時々他の女にも囁く、そんな愛なんて信用できるわけがない。
「あんたの敗因はそこです。何もかも暴力的。相手を考えない。合わせない。だから――俺を殺そうとしたって無駄っす」
ね? と窘めるように言うと、首元を覆っている手の力が更に強まった。
首が締まる。血液は流れているが、酸素だけを的確に絶とうとしている。
慣れている手つきだ。流石は六年生。
「ここで俺を殺しても、滝夜叉丸先輩はあんたには靡かない。絶対に」
「……それは、どうだろうな」
獣の眼をした人が喋る。
ああ、違う。この人は獣だ。人の姿をした獣。「くくっ」
やべえ、ウケる。超ウケる。
くっそ笑えるんだけど。
「あのさあ、先輩」
言ってやる。
「あの人は俺が奪ったから。もう俺のものだから、無理だって」
奪う
あの人はもう俺のもの。
ま、手に入れたんじゃなく、正確には奪ったんだけどさ。
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