千の顔を持つと言われている三郎にとって、本音を隠すなどお手の物だ。


 本心を明かさず嘘をつくことも、本音を守るために騙すことも、また。








「そういや三郎、お前、いつから雷蔵のこと好きになったんだ?」


 委員会の活動時間、今日は特にやることがないからと本を読んでいた三郎は自習に励んでいた勘右衛門にふと尋ねられ、言葉に詰まった。


 寝そべった状態からそろりと様子を伺うと、文机の前に座り込み教科書を見ている勘右衛門の横顔はいつも通りの涼しさだった。


 教科書を見つめながら頭の中で要点を絞っている真剣な眼差しも、筆の柄の部分の先端を口元に添える部分も、全ていつも通りだ。


 何百日も何百回も見てきたからわかる。


 ああ、いつも通りだな、と。


 彼は特に他意があってこの話題を持ち込んだのではない。ただ気になったから質問しただけ。本当にそれだけなのだ。


 それだけの理由でこんな質問をしてくるから、腹が立つ。いつも。


「――ずっと前からさ。それこそ、いつからだったかわからないくらい。気がつけば好きになってた」


「そっかあ。……凄いなあ。三郎は、恋ってやつを知ってるんだな」


「……何だ、どうした薮から棒に。もしかして恋を知りたいのか?」


「いや。俺は恋はしないから」


「……どうして……?」


「どうしてって、あるだろ、忍者の三禁が。俺は生涯を忍で通したいからさ。その信念である三禁を貫きたいわけ」


「……潮江先輩みたいだな」


「そうかなぁ?」


 ぷっ、と勘右衛門が噴き出す。恐らくは文次郎の、あの目の下の隈と、いつもギンギンギンギン騒いでいる熱血っぷりを思い出したのだろう。


 六年生相手に失礼とは言えるが、あれが相手なら思い出して噴き出しても仕方ないと三郎は思う。


「勘右衛門は、恋はしないの?」


「うん。……でもさあ、おかしいよね。忍者の三禁って言うなら、どうして恋のことは教科書に載ってないんだろうね」


 ぺらりぺらりと丁寧な手つきで忍たまの友の頁を捲りながら勘右衛門は小首を傾げる。三郎は冷徹さを装いつつ、


「……自分で知れってことじゃないかな」


「ああ、成程ね。だからか……」


 ふーむ、と溜息をつく。


「一生、恋のことはわからず仕舞いか。でもまあいいや」


 ――それなら私は一生、片思い決定か。



















 千の顔を持つ彼にとって、自分の本心を押し殺すなんてお手の物。


 隠し事を隠すのも簡単だ。


 だから言わない。


 ――私はな、勘右衛門。


 思う。


 ――雷蔵のことを好きと言い始めるずっと前から、勘右衛門のことが好きだったんだよ。




 




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