指切りは、遊女が客に不変の愛情の誓いとして、小指の第一関節を切って渡したことに由来している。
男子寮の部屋で、暇潰しにその時にちょうど再放送されていた大河ドラマを見る傍ら、遊びに来ていた庄左ヱ門がそう教えてくれた。
そのはただ「ふーん」と思っただけだったけど、今にして思えばこれはかなり凄いことだと思う。
指を切るなんて痛いのに、その痛みを理解して飲み込んで、耐えて切り落として、痛みも喪失感も受け入れた上で自分の肉の一部を他人に渡したのだ。
並大抵の覚悟でできることじゃない。
それとも、それがロマンだと思われていた時代だったということか。
今の時代では、指を切る代わりに、小指と小指を結び合わせる。昔と比べて格段に気安く行える約束だけど、本人達が真摯ならば、きっとその神聖さは同じように宿っている。
そう。
子供っぽい遊びだなんて言わせない。
「伊助」
「何?」
小首を傾げる伊助の手をそっと取る。白く細いその手の小指に人差し指の腹を這わせると、伊助がくすぐったそうに笑った。
「指切りしよ」
「ん、……それって指を切る方? それとも結ぶ方?」
流石は室町時代出身。
前は男の身だった伊助は、好みはしなかったものの、嗜み程度でその手の店にも足を運んでいた。だからこの程度の知識はやはり知っていたらしい。
虎若は緩く笑った。
「両方だよ」
「? どういうこと?」
「切るくらいの気持ちで結ぶんだ」
言い切ると、伊助は最初の数秒だけきょとんとした後、「ふふっ」と笑った。
噴き出したのではなく、柔らかく笑ったのだ。
「うん、じゃあ、……虎若の指を切るくらいの気持ちで結ぶから、私も切るくらいの気持ちで結ぶね」
「ん」
嬉しい。
虎若は自分の小指を伊助の小指に絡めた。伊助も自分の指に力を込めて結び、
「指切りげんまん」
「嘘ついたら」
「はりせんぼん、本当に飲ます」
「うわ怖ェ。――指切った」
指切り
「結んじまった後で言うの何だけど、約束の内容、何にする?」
「ずっと一緒」
「――いいね。シンプルで。馬鹿な俺にもわかりやすい」
「ふふっ。でしょ?」
[前] | [次]
戻る