「なあ伊助」
「何? 今日のお弁当、おいしくなかった?」
「うんにゃ。おいしかったよ。御飯も唐揚げも出汁巻き卵も野菜炒めも全部」
「じゃあ……何?」
「卒業したら一緒に住もうと思うんだけどさ」
「ん? まあ私、確かに佐武家の屋敷に入ることになってるよね。私を傍に置いておきたいからっていう虎の我儘で」
「ああ、確かに最初はそうだったっけ。でもそれ変更」
「変更って?」
「大人数がいる屋敷じゃなくて、どこかで俺と二人で住もうってこと」
「は?」
「その場所なんだけど、どこがいい? このマンションとこのマンションだとどっちがいい? ああ、それとも一戸建ての家にするか?」
「ちょっと待って」
「あー、大学から離れるけど隣町がいいか? 確かに駅や繁華街に近いから利便も良いしな」
「待って待って」
「えー何? 電車で一本離れるけど少し遠い方がいいって? でも俺は大学で噂を立てられても全然問題無いけどさ」
「待って」
「金は心配いらねえよ、余るくらいあるから」
「わあ嫌味。じゃなくて!」
「何?」
「二人きりで暮らすのはいいんだけど、いいんだけどさ、私の意思は訊かないの? 最初に訊いてきたことだって過ごす家についてだったし」
「え? むしろ何で訊くの? 答えなんかわかってんのに」
「確かに答えは決まってるけど」
「じゃあ問題無いよな。――あ、このマンションいいな。メゾネットで大学からも駅からも近いし。決定」
「そんな高い所、駄目! アパートでいいでしょ!」
「何で」
「二人で住むには広すぎるしお金が掛かりすぎる!」
「金の心配は無い」
「老後に溜めとこう!?」
「どうしてイチャつくのに金を節約する必要がある」
「屋敷で住んでも別にいいじゃない。虎、まだお父様達から色々と学ぶんでしょ? マンションから通うのって面倒じゃない?」
「面倒だけど、俺にとっちゃ二人で暮らす方が大事なんだよ。俺は伊助と二人っきりでいたいんだ。伊助を独り占めにしたいし、伊助の関心を俺一人に向けさせたいって思ってる」
君が足りない
「虎、……んっ……」
「卒業するまではキスで我慢するけど、さ。……ほら口開けて」
「……うん」
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