言葉ってのは、自分の意思を伝えるには結構便利なもんだと俺は思う。


 けどこの前、庄左ヱ門が話題の一つで挙げていたんだが、あるお偉い人の話では、言葉は逆に表現の邪魔になるんだと。


 例えば花を見た時、それがタンポポだったら大抵の人は「あ、タンポポだ」と思い、それだけでタンポポに対する興味は失せてしまう。知識だけを得て満足してしまうと、心に刺激が行き渡らなくなり好奇心が芽生えなくなるそうだ。


 この場合、芸術家達はタンポポという種類ではなく、その色や花弁を見て思いを馳せるらしい。まあ、俺には詳しいことはよくわからない。


 それに俺はどちらかというと言葉は好きな方だ。結構お喋りだし、何せあのは組の一員なのだからクラスメートと盛り上がらない日は無い。


 まあ、言葉の力を借りても全然足りないと思うことはしょっちゅうあるのだけれども。


「伊助ー」


「んー」


「好き」


「うん」


「大好き」


「うん」


「愛してる」


「うん」


 ――さっきから伊助、うんしか言ってない。


 まあアポ無しに休日に女子寮の部屋に押しかけてきた自分も悪いとは思う。


 今はちくたくと縫物をしている伊助の背後から抱き着いている状態だが、邪魔どっか行ってテレビでも見てて、なんて言われない限りは鬱陶しく思われてはいないんだろうなと思う。単なる推測に過ぎないが。


 ――言葉の力って足りないなあ。


 ぶっちゃけ自分のボキャブラリーが少ないだけだとは思うが、この前に兵太夫と三治郎にそれを相談したらによによ微笑まれながらベタベタな展開の少女漫画を男子寮の自室に大量に送り付けられ、同室の団蔵に「お前こいつと同じ台詞を言うの?」とやはりによによと笑われた苦い思い出がある。


 あの後、丁寧に漫画を包装し直して送り返してやったが、今にして思えば少しくらい読めば良かった。


 ボキャブラリーというのはそうそう内から湧いてくるものではない。必死に頭を捻ってみても気の利いた台詞なんて思い浮かんでこない。いくつか浮かんできてはいるが、


 ――自分で言うの何だけどヤンデレっぽいなあ。


 自分と伊助の関係はもはやデレというよりヤンデレの領域に入っているとは自覚しているが、今はそんな気分ではない。伊助の方から振ってきたら喜んで返すが、今はその伊助も縫物の最中だ。


 さて、この状況でどうやって伊助を振り向かせるか。


 ――ん。いいの一つあった。


 簡単なようでいて、実は難しくて神聖な行為。


「伊助」


「ん? ――ッ、縫物の最中にそういうことするな馬鹿!!」


 結果。頬にキスしたら腹に肘をぶち込まれた。




















「あ、ご、御免やりすぎた!」


「い、いいって、大丈夫……大丈夫」


 ちょい痛いけど、大丈夫。


 真っ赤になった君の顔が見れたから。
 


 
 





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