手を繋ぐ。


 それだけでもうどきどきしてしまうのは、私がこういう恋愛事に慣れていないからだろうか。


「――そんでさ、休憩時間の時、団蔵が『腹減ったぁ〜』って言ってさ。しかも腹が盛大にぐーって鳴ってさ、もうみんな大笑いだったよ。しんべヱまで釣られて言い出しちゃうしさ」


 手を重ねる。


 その手と、遠い昔のあの手を重ねて見てしまうのは、隣にいる彼が遠い昔のあの彼だからだろうか。


「――で、俺と庄ちゃんで暇だったから、バイトで忙しいきり丸の代わりに土井先生んとこの地域行事のゴミ拾いやったんだけどさ。あの頃って確かドブ掃除だったよな。懐かしいよな〜」


 手を取る。


 その手と、あの日の手は同じで、違う。


(――伊助。俺、最初は火縄銃を使ったんだ。でも避けられて、弾を込める余裕が無かったから、咄嗟に苦無を出して……それで……)


 あの日。


 初めての実習から帰った彼は、自分の部屋じゃなく、私の部屋に来た。


 泣きそうな顔で彼が見せてきた手は、血でまみれていた。

 べとべとで、ぬるぬるしていて、廊下を歩いていたらしい兵太夫の「何これ!?」って悲鳴が聞こえてきたくらい、滴り落ちていた。


(――虎)


(! 伊助……)


 あの日の私は、構わず両手を伸ばして虎若の手を包み込んだ。ぬるっとした感触が帰ってきたけど、構わない。


 だってあの日の私と彼は、もうそれくらい堕ちていた。


 だからあの言葉を言ったことにだって、躊躇いは全く無かった。


(どんなに人を殺しても、血にまみれても、虎は虎だよ。虎が虎じゃなくなったら、私がちゃんと虎に戻してあげる)


 上から目線で、偉そうに。


(虎の全てを許すよ)


 それでも、彼は笑ってくれた。


(俺も、伊助の全てを許すよ――)


 ……今にして思えば、あれはただの自己満足だった。それでも彼は笑ってくれたのだ。


 手を繋ぎ合わせる、たったあれだけのことで。


「虎」


 今も昔も、彼への想いは変わらない。


「手、繋ごうよ」


 既に手を重ねている状態で言うと、虎若は一瞬きょとんとした。しかしすぐにパッと笑みを浮かべ、


「ん」


 並べていた指をほどいて、伊助の指の間に通し、掌をくっつけて、指と指を絡み合わせる繋ぎ方に変えた。



















 いつの世でも、時でも、君の手はずっと繋いでいるから。




 





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