げんじつとゆめのくべつがつかない。
たまにそんなときがある。
「しょ、庄ちゃん! 三治郎が――」
「えっ? 僕がどうかした?」
「あ、あれ……? 三治郎、血塗れ……じゃ、ない……」
ゆめと、かこのくべつがつかない。
さいきん、ずっとこうだ。
「池田先輩、次の予算会議についてなんですけど、火薬庫の錠前について――」
「火薬庫は地下に移されて、鍵も電子ロックに変わっただろ?」
「……あ」
「全く……いつになったら昔と今を区別できるようになるんだ? この注意ももう四回目だぞ」
「す、すみません……」
ゆめをみる。
みんながちまみれになるゆめや、たのしくくらしていたころのゆめを。
でも、それがゆめなのか、かこなのか、よくわからない。
「喜三太、ねえ、部屋で飼ってる毒蛇のことなんだけど」
「ふえ? 毒蛇なんて飼ってないよ?」
「あ、ご、御免……」
「これくらいのでっかいナメさんは飼ってるけどね」
ここはどこ?
ゆめ?
かこ?
それとも、わたしのなかのもうそう?
「ねえ、虎」
「ん? どうした伊助?」
「ここにいる虎は虎? 夢じゃなくて本物?」
「本物だぞ? 何を言ってるんだ伊助」
ここはどこ?
だれがほんもので、だれがゆめ?
「最近、夢を見るの。でも、昔の……室町時代の記憶と混ざり合っちゃって……」
「……区別がつかなくなった、とか?」
「……うん」
ああ、でも、でもね。
たとえほかのだれがゆめでも、かこでも、くべつがつかなくなっちゃったとしても。
「でも虎は、虎だよね」
「当たり前だろ? ――ずっと一緒にいるって、約束したもんな」
「うん。……うん……」
「泣くなって。大丈夫、大丈夫だからさ」
ん。
きみからのキス、やさしくてうれしい。
泣かないで
「――ってな感じで、まあ何とか慰めておいたが」
「うーん……一生続くのかな、伊助のこの悩み」
「大丈夫でしょ。もしこのことで伊助が泣いても、虎若がいたら、伊助は泣くことも泣きやむこともできる。伊助の夢にも昔にも今にも、虎若は伊助の世界のどこにでもいるんだからさ。ね? でしょ?」
「まあ……当たっちゃいるがな」
「否定はしないんだね。喜三太の大仰な解釈」
「だって事実だし。――あ、伊助が突っ走ってくる。じゃ、泣かせて泣きやませてくるわ」
「頼むよ」
「行ってらっしゃーい」
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