伊助は虎若に何かするのが大好きだ。
それは例えばお弁当を作ることだったり、食事を作ることだったり、彼の衣服を洗濯することだったりする。
どれも好きだが、中でもトップ三に入るのは耳掻きだった。
「こっちおいで、虎」
「うい」
畳の部屋で腰を下ろし、足を斜めに並べてポンポンと膝を叩く。
虎若は素直に伊助の膝の上に横たわった。
「痛かったら言ってね」
「あい」
何だか子供のようだ。あとで金平糖をあげようかな、と思いつつ耳掻きをそろっと耳に入れる。
そろりそろりと耳垢の存在を確かめていると、虎若が小さく笑った。
「くすぐったい」
「耳掻きって結構緊張するのよね」
「でも庄左ヱ門にはやってたんだろ?」
「ううん。庄ちゃん、そういうの一人で処理してたから」
「あ、そうなの?」
「うん」
庄左ヱ門は掃除や洗濯も、自分でできることは自分一人でやる性格の持ち主だった。
思えば団蔵や三治郎に「お母ちゃん耳掃除やって〜」と冗談混じりにねだられても、庄左ヱ門はそうやって甘えてきたことはただの一度も無かったかもしれない。
「虎は――……思い出した。たまーに三次郎にやってもらってたよね。何かきゃっきゃうふふみたいなノリで」
「あー、あれはノリだし本気じゃないし他意も無いしただじゃれ合ってただけだから、力の入りすぎでふるふるしてる伊助の手には耳掻きがあること思い出して」
「あ、御免、知らず知らず力が入ってた」
くくく、と笑う。
優しい手つきで耳掻きは続く。途中、何度か耳垢を拾ってティッシュの上に落とした。
「んー……」
虎若の目が眠そうにとろんとする。
頭の下に伊助という人肌の体温を感じているうちに、釣られるように身体の体温が高くなって眠気がきた。
「はい終わり。虎……虎?」
伊助は返事をしない虎若の顔を覗き込み――苦笑した。
「……寝ちゃったのね」
子供のようなあどけない寝顔を見せる彼に、優しい微笑みで言う。
「お休み」
ちゅ、と、起こさないように頬に触れるだけのキスをした。
寝てしまった君に
「あ、足が痺れた……」
「御免、伊助。代わりに着替えから風呂まで俺が面倒を見るから」
「そこまでいいよ。……代わりに明日やってね」
「着替えと風呂の手伝い?」
「耳掻きだってば!!」
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