たまにどうしようもなくイチャイチャしたい時がある。


 それは例えば伊助にとっては電車に乗っている時に虎若の肩に寄りかかる時だったり、虎若にとってはたまに見られる伊助の満面の笑顔を見た時だったりする。


 大半の場合は片方がイチャイチャしたいと思ったら相手に求め、相手が了承したらイチャイチャする。ちなみに伊助は何度か拒んだが、虎若はどんな状態でも必ず受け止めている。ちなみに伊助の拒む理由は体調不良や調理の最中である。


 その日の夜は珍しく、二人がイチャイチャしたいと思ったのがほぼ同時だった。


 窓の戸締りや火の元を確認して、明日の準備もして、さあ寝ようと二人で寝室に入った瞬間。


 あ、何だかイチャイチャしたい、と伊助は思った。


 今日は何となく行為じゃなくて会話の方をしたい、と虎若は思った。


 ねだったのは伊助が先だった。虎若の腕を軽く引っ張り、ベッドの端に座らせる。その膝の上に座ると、虎若は押し倒しはせず、腕を回してぎゅっと引き寄せてくれた。


 そんなわけで、二人の気分がぴたりと重なった今日の夜。


 二人はイチャイチャしている。


「虎〜」


「なーに?」


「世界一大好き」


「俺だって、世界で一番伊助を愛してるよ」


 衒わずに言うと、伊助は「ふふふ」と嬉しそうにこぼすような笑みを見せた。ここが外なら顔を背けるか拳で軽く叩くかのどちらかだが、二人きりの時の彼女は卒業前に長屋の部屋を覗き見た同期生も驚くくらいのデレデレと甘えた態度を取る。ちなみにその後、その同期生達は気づいた虎若の消音機付きの威嚇射撃で散り散りになったが。


「虎は世界一格好いいの。優しいしあったかいし太陽みたいだし努力家だし毎日頑張ってるし嫌いな物でも残さず食べてくれるしいつも私のことを支えてくれるし」


「伊助だって世界一可愛いよ。ほんわかしているし家事は完璧だし好きでこなせるし優しいし気が利くし天使みたいだ」


 と自分で言っておきながら、不安そうな表情を作る。


「あ、でも……天使になってどこかに行くなよ……?」


「どこにも行かないよ。虎の心と魂は独り占めにしたいって思うけどね」


 言って、寝間着代わりのシャツを着ている虎若の胸に掌を当てる。心臓の鼓動を感じながら、本当にこの心臓が得られたらなぁ、と思う。


 と、胸に当てていたその手をきゅうっと虎若の左手に握り込まれた。


「もうとっくにお前のもんだって。その代わり、お前のも俺にくれ。運命も、命も、魂も心も何もかも全て。伊助が俺にくれて、俺のを伊助が持っていてくれたら……」


 お互いの全てを交換し、共有して。依存し合えたら。


「それが俺の一番の幸いになる」


 力を込めるわけでも強調するわけでもなく、ただ本心を告げると、伊助は呆気に取られたように目を瞬かせた。


「……私の全てを預けていたら、それが虎の幸いになるの?」


「ああ。伊助は?」


「私もだよ。それが私の一番の幸い」


 重ねていた手の指を絡み合わせる。伊助が残っていた方の手で、その絡み合う指を包み込んだ。


「ずっと、そうだといいね。ずっと一緒で、ずっと共有し合えて、ずっと続けば……」


 虎若の胸にもたれながら顎を上げる。視線が合わさると、このタイミングと決めたわけではないのに同時にお互いの唇が近づいた。













 




 お前と一緒にいられないと、欠けたように不安になってしまう自分がいる。


 これが依存だって俺はとっくに気づいているけど、お前は気づいていないんだろうな。伊助。


 だけどお前が気づいても気づかなくても、俺はずっとお前の傍にいる。




 





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