キスをする時、虎若が目を開けて見ていると伊助は高確率で怒る。


 目を閉じて無防備になっている情けない顔を見られたくない、と言っていたが、じゃあ伊助も目ェ開けて俺の顔を見ててもいいよと言うとそうじゃない馬鹿と返された。


 目を開けた方が相手の顔が至近距離でよく見えるし、だんだん赤くなっていく頬とか、涙が浮かぶ目尻とか、少し寄っている眉根などをつぶさに観察することができる。だから目を開けていたいと言ったら、そんなのいちいち見るな馬鹿と返された。


 結果、何で馬鹿と呼ばれるのか未だによく分からない。見たいから見る。それでいいじゃないか、と虎若は一人で結論付けていた。


「伊助」


 手を伸ばす。すると伊助は眉尻を下げ、照れた笑みで差し伸べられた手を取った。


 手を握って引き寄せる。指先で顎を持ち上げる。最近になって気づいたのだが、伊助はこうやって顎を持ち上げられるのが好きらしい。実際にやると少し嬉しそうな顔をする。


 顔を寄せて近づける。出した舌でぺろりと伊助の唇を舐めると、伊助はぴくりと震えて唇を薄く開けた。


「虎」


「ん――」


 あとは本能のままに食いつく。


 唇を重ねて、舌を忍び込ませ、しゃぶりつくすように歯や口腔を舐める。舌を絡ませると、その擦り合う動作で唾液が出てきた。


 目を開けて伊助の顎を無理矢理に上に上げさせる。掌で喉を撫でると、伊助は泣きそうな顔で吐息を漏らした。それでも覚悟したように目をぎゅっと瞑り、


「ふ……っ」


 唾液を飲み込んだ。


 伊助の目が開く。何すんの、と凄みのある怒りの目つきで睨んでくる。


 ふ、と笑みをこぼし、


「――っと」


 シメと言わんばかりに舌を一度、くるりと絡ませ、唇を離した。


 間にできた糸に伊助の顔が真っ赤になる。















 ちゅ、ちゅ、と淡く吸いつくと、怒りの眼差しを向けていた伊助の目の焦点が徐々にズレ、定まらなくなり、やがて虎若の大好物のとろんとした表情に変わった。



 
 





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