「むきゅー」
「…………ッ!!」
「ほぎゃー!」
「凄い、的確な角度からのアッパーカット!」
「てか僕の庄ちゃんに何していやがるこの馬鹿旦那!」
「兵太夫、解説してないで団蔵を助けてやれ。伊助は庄左ヱ門の傍にいてやってくれ。んで団蔵、お前、今のはセクハラだって理解しているか?」
「……何で?」
「……あのな、庄左ヱ門は女の子だぞ。恋人でもない男がいきなり女の子に抱き着いちゃ駄目だろ。な?」
「え。何かスゲェ虎若が理知的に会話してんだけど、気持ち悪くて逆にわかんねえ」
「……っ!」
「抑えろ虎若! お前までキレてどうする! つかお前のアッパーカットが直撃したら気絶どころじゃないから! 下手したら死ぬから!」
「金吾、頑張ってえー」
「お前らも止めろー!!」
ギャアギャアと喚く、今も昔の良い子のは組の生徒達。
その騒々しさに笑みを浮かべつつ一つ溜息をつき、この中では最もまともと言える乱太郎が優しい声で団蔵に問いかけた。
「ね、団蔵。つまるところ、何で庄左ヱ門に抱き着いたの?」
「え? だって何か急に抱き締めたくなったから」
「じゃあ許可を貰わなきゃね。そのためにはまず恋人にならなきゃ」
「何で?」
「恋人でもない男に抱き着かれたら、女の子は不愉快になるからだよ」
「何でー? 俺は庄ちゃんのこと好きだし抱き着きたいからそうしただけなのに、何で許可とかいるの?」
きょとんと小首を傾げる団蔵。
ひくり、と、乱太郎のこめかみが引きつった。それをヤバいと判断したきり丸が二人の間に割って入り、宥めるように言った。
「ま、まああれだ、団蔵は庄左ヱ門のことが抱き締めたくなるくらい好きなんだよな?」
な? と問いかけると、普段から馬鹿だの馬鹿旦那だの言われている少年はニパッと明るい笑顔を浮かべ、
「うん! そう!」
コックン、と頷いた。
伊助に浅く抱き締められ、困惑した表情の庄左ヱ門に向かって両腕を広げる。
抱き締めてていい? ってかそうさせて
「……あと一回だけ、なら――」
「駄目に決まってんだろうがこの馬鹿旦那! ……え? い、いいの? 庄ちゃん」
「一瞬だけなら」
「よっしゃァー! ――ああなんかむっちゃ柔らかくてあったけえー!」
「失せろ!」
「はうっ!?」
「何で団蔵、伊助の神経を逆撫でするようなことを言うのかな」
「まあ馬鹿だしな」
「馬鹿だもんね」
「馬鹿だからな」
「きり丸と兵太夫はともかく、親友のお前は否定してやれよ虎若……」
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