前世でも現世でも、俺の周りにはいつも女の子がいた。
ノリが良くて遊びたい時に遊べる女の子。
お互いに割り切っていた、欲求不満を晴らすためだけの女の子。
たまに暇潰しをするために家に遊びに行っていた女の子。
あと前世で覚えているのは、俺のことを好き好き言ってきて付き纏ってきた年下のくノ一と、これだけの物をやるからお前の村の跡取りを婿にくれと大量の米俵や銅貨や金貨を送ってきたどこぞの城の姫君。
どいつもこいつも俺の上面だけを見ていた。
そして見事に騙されていた。
「俺さ、前世じゃかなり上手くやっていたんだよ」
「らしいね。私はあまり覚えていないんだけど、兵太夫や三治郎が面白おかしく話していたよ。団蔵は女を釣るのが上手かった、って」
「……まあ、合ってはいるな。その釣るって表現」
現世に産まれた今、思い返せば自分でも笑えるくらい俺は自分自身の上面を上手く取り繕っていた。
明るくて前向きでいい加減で、ちょい字が下手で、でもまっすぐに前に進もうと行く馬鹿旦那。
ちょっと演技をすれば女共はひょいひょいやってきた。
「確か前世の俺の嫁さん、どこぞの城主の娘だったんだよな」
「へえ」
「俺は加藤村の跡継ぎだから婿にはなれないだろ。だから自分が嫁として入るってスゲー必死になっていてさ」
「ほう」
「どっかの遊郭から高い金を払って娘を買って、そいつを自分の影武者にしたんだと」
「ふむ」
「それである日、俺の所に来てさ。城は私の影武者が継ぎます、もう大丈夫、ずっと二人で幸せですよって。俺としては、は? って感じだったんだけどさ」
「ふむふむ」
「俺、城主から頼まれて度々娘さんの話し相手になってたんだけどさ。俺としては本当にただ話すだけの存在だったんだよ。なのにいきなりプロポーズされちまったんだよな」
「ふむふむ」
「で、俺、この女って面白いやって思って結婚したんだけど、実際に一緒に暮らしてみると全然つまらなかったんだよな。自分の都合を押し付けてばっかり。こっちのことなんか全く考えてくれねーの」
「ふむふむ」
「でも俺と一緒にいる、って、ずーっと言ってたんだよな」
「ふむふむ」
「いい男って辛いよなあ」
「ふむふむ」
「なあ、話聞いてる?」
「へむへむ」
「銭の花は白い号!?」
「冗談だよ」
「庄ちゃん、前よりギャグを好むようになったな……つか俺の話聞いてた?」
「ああ、ただの自惚れた馬鹿の自慢話のこと? 聞いていたよ。耳をちくわ状態にして」
「聞いてねえじゃねえか!」
「だってつまらないから」
「……は?」
「私はね、団蔵。忍術学園に在籍していた頃の話を聞きたいのよね。だからそっちの話だけして」
「俺の話は?」
「そっちはしないで」
「何で?」
「私には前世の記憶があまり無い。だから前世のことは知りたいのよね。でも貴方のことに関して言うなら、私は前世の貴方じゃなく今の貴方を知りたい。だって私が生きているのは今この時代なんだから」
「……スッゲエ口説き文句」
「そう? 私は思ったままのことを話したんだけど」
「無自覚って恐ろしいな。まあとにかく俺には口説き文句に聞こえる、が……嬉しいことには嬉しいんだが、逆に悲しくて切なくもあるな」
「? 何で?」
「お前、今の口説き文句、俺以外の元は組全員に言ってたじゃねえか。……だからスゲェ悲しい。俺だけに向けられた口説き文句じゃなかったんだな、って。しかも俺が最後とかどんだけだよ」
「いやだって、言う機会が無かったから」
「……コノヤロ。いつか振り向かせてやるから待ってろよ」
「は……?」
俺が恋煩いとか、笑うだろ?
好きな相手にあんま大事に想われてないってことが、こんなに苦しかったなんて。
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