四郎兵衛×三郎次



 何より君が愛しくて、君を想うと切なくて、いつだって君に逢いたくなる。
それが恋だというのなら――



 僕は走っている。
普段の委員会活動のおかげか、幸いにしてあまり息は切れていない。
そのことをちょっぴり誇らしく思いながら、学園へと急ぐ足を更に早める。
早く、早く行かないと。
学園ではアイツが待っていてくれてるんだから。


――待っててやるから、早く帰って来いよ。


 不機嫌そうな、だけど真剣な色を滲ませた彼の声を思い出す。
普段から素っ気なくて、あまり甘えたことも言ってくれない彼が待ってると言ってくれたのだ。
待ってるから、早く帰って来いと。
 これで答えなかったら男として失格だ。

「――っ、」

 一度浅く息を吐き出してまた速度を上げる。
同じ委員会の先輩達にはとても敵わないけれど、自分の中では最高のスピードで裏々山を駆け抜けた。


 学園長先生のお使いに生徒が駆り出されるのはいつものことだったけど、今回は何故か僕に白羽の矢が立った。
多分僕じゃなきゃいけない理由なんてなかったんだと思う。
それなのに僕は結局断ることも出来なくて、大好きな彼との約束を反古にしてまで裏々山の麓近くにあるお茶屋さんまで学園長先生のおやつを買いに行っていたのだ。
たかだか学園長先生のおやつの為だけに彼との約束を守れなかったのかと思うと、そんな自分が情けなくて仕方なかった。

 でも、それでも。
彼は待っててくれると言ったから。
彼にしては珍しく約束を守れなかった僕に嫌味の一つも言わずにただ待っていると言ってくれた。
早く帰って来いって、新しい約束までくれて。
だから、せめてその約束だけは絶対に守りたくて僕はまた一つ息を吐き出して速度を上げた。
限界なんてもうとっくに越えている。
今なら委員会の先輩達と並ぶことだって出来そうな気がして、少しだけ笑みが零れる。


 ねぇ、三郎次。
僕は君の為ならきっとどんな生き物だって追い越せるよ。
だって、君が愛しくて仕方ないんだもの。
約束を守れないと告げた時の、君の哀しげな表情を思い出すと僕まで哀しくなってくる。
早く、会いたいなぁ。

早く帰って、君に逢って、それで――、

たくさんのごめんねと、待っててくれてありがとうと、大好きだよって気持ちを伝えたい。

そしたら君は、ちょっとでも笑ってくれるかな。
きっと僕のこと遅いって叱って、拗ねたようにそっぽを向いて、それでも最後にはおかえりって小さく笑って、僕の頭を撫でてくれる。
そしたら僕も、とびきりの笑顔でただいまって君に言うんだ。


 あぁ、そんなことを考えてるうちにやっと学園の門が見えて来た。
君のもとまであと少し。
はやる気持ちのせいで縺れそうになる足を叱咤して、門までの道を駆ける。

早く、君に――。







誰より君が愛しくて、君を思うと切なくて、いつだって君に逢いたくなる。
それが恋だというのなら――、

僕は恋をしているらしい。










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