御弁当は多量にあったが、ゴールドはほとんど平らげてみせた。
 クリスはバスケットに丸めたラップと空になったタッパーを入れて、蓋を閉じた。
 改めて、感嘆する。

「男の人って本当に食べるのね」
「まあ育ち盛りの男の子だし」

 ゴールドに言わせてみれば、平均の女の子よりは良く動くはずのクリスが、あれだけの量しか食べないのが不思議だ。
 丘の上に風が吹き抜ける。
 丘の下からポケモン達の遊ぶ声が聞こえてくる。

「クリス」
「何?」
「膝枕してくれよ」

 一拍の間が空いた。
 やがて、クリスはゆっくりと言った。

「……どうぞ」

 両脚を前に伸ばして揃える。

「おう」

 ゴールドは帽子を脱いで、腿の上に頭を置いて横たわった。
 頭の下に、もちりと柔らかいクリスの腿の柔らかさを感じる。
 ぬくい。
 それに、ほんのりとクリスの匂いがする。
 いい匂いだ。
 クリスのフェロモンの匂い。

「……風、気持ちいいわね」

 クリスが呟く。
 丘の上を透明な風が吹き抜けた。
 緩い風だ。髪の毛先が軽く揺れる程度の、淡く弱い風。

「ふあああああ」

 腹の満腹感も重なって、眠気が来た。
 頭の下の枕も、ちょうど良い具合に柔らかくて温かい。
 身体中を温もりが満たしていく。
 ゴールドはその温もりに釣られるままに、ゆっくりと瞼を閉じた。
 意識が遠のく前。
 クリスの優しい眼差しを感じたような気がした。
 眠る直前なのに、意識が覚めて、どきりとした。


 

 
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