クリスの横にはどっしりと重そうな大振りのバスケットが置かれていた。
ゴールドは移り香の件から話題を逸らすため、敢えて声音を弾ませて言った。
「食おうぜ。弁当」
「え、ええ」
クリスは笑みで頷き、バスケットを開けた。
中にはラップで包まれたお握りとサンドイッチが入っていた。
「お握りの中身はおかかと鮭と昆布。サンドイッチはハムとレタスと卵とチーズよ」
それらラップで包んだ物を一度外に置く。
バスケットの底には更に大きめのタッパーが入っていた。
クリスはそれを引っ張り上げるように取り出した。
「色々と作ってきたから。たくさん食べてね」
タッパーの中はアルミホイルで仕切りがされ、クリスの言葉の通り、たくさんのおかずが入っていた。
定番の卵焼きやウィンナー。オムレツにブロッコリー、野菜の肉巻き、ハンバーグ、鯖の味噌焼き、唐揚げ、ポテトサラダ。
シンプルだからこそ、単純に伝わってくる。
おいしそう。
「はい」
「お、さんきゅ」
差し出されたウェットティッシュで両手を拭く。
この辺りの気配りの細かさは流石だ。
「じゃ、頂きます」
「召し上がれ」
クリスが微笑む。
ゴールドはラップを剥がしてサンドイッチの一つにかぶりついた。
重ねた具材で分厚くなったサンドイッチはそれだけでボリュームがある。
もちもちとした食パンの感触に、敢えて切り落とされず残された耳の部分も適度に硬くて噛み応えがある。
中の具材は薄めの味付けだが、そのおかげで具材同士の味が相殺し合わず、濃すぎない味わいに仕上がっていてちょうどいい。
「ん、美味い」
「良かった」
クリスは笑みを浮かべた。
明るく温かい、日だまりのような笑顔だった。
「零れてるわよ」
「悪い」
クリスはゴールドの口先に指先を添え当てた。
垂れてきたソースを指先で拭って、自分の舌でぺろりと舐める。
赤い舌と白い歯がちらりと見えて、ゴールドはわずかにどきりとした。
自然とクリスの唇に目線が向く。
やや薄めだが、血色は悪くない。ほんのりと赤くて、触るとふにふにというよりぷにぷにとしていそうだ。表面にグロス――ではなくリップを塗っている。
不意に、胸が疼いた。
「はい。お茶」
「さんきゅ」
クリスが水筒でお茶を注いでくれた。
カップになった水筒の蓋を受け取る。
その時に指先に触れた。
ほんのりとぬくい。
些細な温もりだ。
だが、
「ゴールド、どうしたの? 顔が真っ赤よ」
「……いや、別に」
首の辺りから血流が上り、頬に熱が灯る。
胸の辺りが疼いたような苦しさを感じた。
これは一体、何なのだろう。