部屋の整理をしていると、古いアルバムが出てきた。
表紙の年号は、十年前のもの。
懐かしい。
もうそんなに時間が経っていたらしい。
「ねえ、覚えてる?」
一通り物思いに耽った後。
リビングに戻って、彼に訊いてみる。
すると、リョウはあっさりと答えた。
「初めて会った時の事?」
「……何で分かったの?」
「だって今日じゃないか。僕達が初めて出会った日」
「良く覚えているね」
私はアルバムを見て思い出したのに、という言葉は飲み込んだ。
リョウがモンスターボールを一つ開放する。
出てきたのはアゲハントだった。
「覚えているよ。あの日は春の陽気な日だった。天気が良くて、草ポケモンや虫ポケモンの機嫌が良かった」
「本当に、良く覚えているね」
「だって初めてだったんだよ。虫ポケモンが好きな女の子なんてね」
リョウの言う通り、私は虫ポケモンが好きという、変わった女の子として知られていた。
最初のポケモンはキャタピーだった。
「成長して大きくなったら虫ポケモンを扱う子も増えたけどね。でも、昔は、同年代の中で、虫ポケモンが好きって公言していたのは、確かに私だけだったね」
私もモンスターボールを開放した。
中からバタフリーが出てくる。
アゲハントとバタフリーが寄り添い合った。二匹とも仲が良いのだ。
舞いを踊るように空中で回り始める。
私はそれを眺めた。
「――ねえリカ。出会って十周年の記念に、イッシュ地方へ旅行に行かない?」
「え?」
突然の提案に私は驚いた。
リョウは、世間の女の子が虜になる、あの魅力的な笑顔を浮かべていた。
「虫タイプと炎タイプを併せ持つ、ウルガモスっていうポケモンがいるんだって。二人で探しに行こうよ」
「でも、四天王のリョウがシンオウ地方から離れるのは……」
「チャンピオンのシロナさんなんて頻繁に離れているじゃないか。僕達もちょっとくらい休もうよ」
あれはシロナさんがチャンピオンで、シロナさんがシロナさんだから半ば黙認されているようなもので、――何を考えているのか分からなくなってきた……。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。二週間って、きちんと期限も決めて申請しておいたから」
「二週間か。それなら……」
それくらいなら大丈夫……だと思う。
多分。
「じゃ、荷造りしようか。あとシロナさんに渡す御土産も決めておこう」
「うん」
一生の恋は無い。
でも、愛を燃やし続けていれば、かつての恋を忘れる事も無い。