幼い頃。
特別な力を持つ僕は、一切の外出を禁止された。
俗世に住む普通の一般人と接すると、その穢れによって、特別な力が削がれてしまう。
何の力も持たない普通の一般人と接すると、特別な力が、害をもたらしてしまう。
そう言われた。
「初めまして。リカと言います。宜しくお願いします。マツバさん」
五つになった頃。
屋敷に籠もる僕を不憫に思って、と、宗家に奉公してくれる老婆の一人が孫の少女を連れてきた。
リカと名乗った彼女は朗らかに笑っていた。
一族の中には、僕と同年代の人間もいる、とは聞いていた。
でも、実際に出会ったのは初めてだった。
「他の子達は何をしているの?」
「修業に打ち込んでいるんです」
「君は?」
「私は、力が弱いので、修業はもう終わったんです」
御祖母ちゃんに、マツバ様の御友達になってやれ、と言われました。
リカはそう言っていた。
でも、僕はリカの祖母の真意を何となく悟っていた。
僕に付け入って、気に入られたいためだろう。
宗家の出身。
歴代の中でも強い力。
一族の老婆達は僕の事を大切に扱い、自分の孫や曾孫を、僕の友人や世話係にと差し出した。
だから、その孫や曾孫達に、僕は疎まれた。
それを乗り越えて仲良くなれても、他の老婆達に陰口を叩かれ、精神を病んでしまい、ほとんどの人が辞めてしまった。
僕の傍に残ったのは、リカだけだった。
「ねえ」
「はい、何ですか?」
リカは台所で夕食の用意をしている。
ハヤト君曰く「料亭で出されるような料理」を、リカは毎日、当たり前のように作る。
そういう女性を好む人から見れば、理想的なお嫁さんだろう。
でも、それは幼い頃から僕の面倒を見てきた結果だ。
周りの老婆達に指導され、時に陰口を叩かれながらも、ひたすらに頑張ってきたリカの成果。
今、屋敷には僕とリカと、ゴーストポケモン達が住んでいる。
人間は僕とリカの二人だけ。
一人か二人増えて、賑やかになった事もあったけど、結局は二人きりになった。
「傍にいて。ずっと。僕には君しかいないんだから」
僕がこう言うと、リカは必ず言ってくれる。
「はい」
そう言ってくれる。
けど、リカしかいない僕とは違って、リカには他にいくらでもいる。
僕の代わりの存在も。
僕以上の存在も。
「……僕には、君だけなんだから」
「はい。私もです」
僕の恋は、初恋だけ。
願わくは、この最後の恋が叶う事を。