「ねえ、君」
「はい?」
「その石、どうしたの? そんなにたくさん。買ったの?」
「いえ。掘り当てたんです」
「君が?」
「はい」
「一人で?」
「はい」
「……本当に?」
「はい。私、進化の石を掘り当てるのが得意なんです」
「化石は?」
「化石は駄目ですね。一つも掘った事は無いんです」
あれから一年が経った。
いわば今日は一年記念。
――交際しているってわけじゃ、ないんだけどね。
地下通路。
ダイゴはそっと溜息をついた。
目線の先。
リカはハンマーとピッケルを駆使して、慣れた手つきで黙々と作業を進めている。
その周りで、ワンリキーが土塊を寄せ集め、ヨーギラスとウパーが砂遊びをし、ナックラーはのんびりと欠伸をしている。
いつもの光景だ。
一年前に出会ってから、ほぼ毎日のように見ていると思う。
「あ。これ綺麗」
リカが何かを掘り出した。
キラキラと輝く水色の石。
水の石だ。
リカには石運≠ェある。
リカが掘ると、必ずと言っていいほど、進化の石が出るのだ。
他にも、プレートやハートのウロコ、星の欠片も、大量に出る。
でも、何故か化石は出た事が無いらしい。
「ん? これ欲しいの?」
水タイプとして惹かれるのか、ウパーがじっと見つめている。
リカが水の石を渡した。
ウパーが嬉しそうに受け取り、水の石を御手玉のように弄ぶ。
進化の石はそれなりに貴重であるはずなのだが、リカは石運≠フためか、そうとは感じていないらしい。
「あ。雷の石」
リカがまた石を掘り当てた。
今度は黄色に輝く石だ。
「すっごい綺麗……」
リカはうっとりとした目で石を見つめる。
毎日のように見ているはずだが、それでも見とれてしまうらしい。
リカは恍惚とした溜息を零して、バッグに雷の石をしまった。
「見飽きないのかい?」
「見飽きないですね。――ダイゴさん、そちらはどうですか?」
「相変わらずだよ」
一つも掘り出せていないよ。
君の事に夢中で、集中できていないからね。
という言葉は、喉の所で引っかかって、声に出す事はできなかった。
「あ。めざめ石」
また一つ、進化の石が掘り出される。
リカの表情が輝いた。
瞳のように眩しい石。
めざめ石。
進化の石の中でも、特に希少性の高い石だ。
リカが恍惚とした眼差しで見つめ始める。
ワンリキー達はリカのそんな言動には慣れているため、思い思いに時間を過ごす。
ウパーが土を濡らし、ワンリキーがそれを固めて、即席の御手玉を作る。
ワンリキーが三つの御手玉を回し始めると、ヨーギラスがきゃっきゃと喜んだ。
リカから聞いたのだが、ヨーギラスは一番の新入りで、年齢もまだ幼いらしい。
リーダーはワンリキーであるとの事。
――確か、誕生日が同じなんだっけ。
リカの出身地であるシンオウ地方のクロガネシティで、リカが産まれた日に、ワンリキーも卵から孵ったらしい。
それを聞いた卵の持ち主が「最初のポケモンに」と譲ってくれ、それ以降の付き合いらしい。
ダイゴの目から見るとそれなりにレベルは積み重ねているはずだが、ゴーリキーには進化していない。
リカに理由を尋ねてみると、最初にリカが掘り当てたのが変わらずの石だったらしく、そうとは知らずに「最初に掘り当てた物だから」とワンリキーに渡したらしい。
すると、いつまで経っても進化の兆候が出ず、ジョーイさんに相談した際、初めてその時に自分が渡したのが変わらずの石だと知ったとの事。
結果的には、ワンリキーは今も変わらずの石を持ったまま、リカの仕事を手伝っている。
「……ダイゴさん? 何ですか?」
気が付くと、リカの目を見つめていた。
リカの目は、めざめ石の光を帯びて薄く輝いている。
その目をじっと見つめる。
大抵の人なら、これで戸惑う。
でも、リカは戸惑わない。
きょとんと見返すだけだ。
「……リカの目、綺麗だなって」
「ただの人間の眼球ですよ?」
「でも、綺麗だよ。石より綺麗だ」
本心を言った。
すると、リカは小首を傾げた。
「――そうでしょうか?」
照れ隠しではない。
本心の言葉だ。
ダイゴは内心で溜息を漏らした。
――どういう言葉を言えばいいのかな。
口説き文句ならいくらでも知っている。
今まで何度も言ってきたし、何度も言われてきた。
でも、リカとは、いざ対面すると、そういう言葉が浮かんでこない。
一緒にいるだけで心臓が弾んで、呼吸もままならない。
できている事と言えば、石の話題で盛り上がる事だけだ。
でも、これが一番楽しいのだから、これが一番の近道であるような気がするし、もしそうでなくても今更どうしようもない。
先程に、女性の瞳と石を比べるような発言をしたが、これもダイゴなりの本心だ。
一般的には「女性と石を比べるなんて」と怒られるかもしれないが。
――何て言えばいいのかな……。
自分なりの全力で、まっすぐにしか愛せない。
他のアプローチ方法が思いつかない。
今日もリカに会う直前まで、食事に誘おうとか、デートに誘おうとか、色々と考えていたのに。
いざ対面すると、そういう考えが吹き飛んでしまう。
――どうすればいいのかな。何て言えばいいのかな……。
それなりに真面目に発掘作業を進めながら、ダイゴは物思いに耽った。