「リカさん」
「はい?」
「町の方で急患が出たらしいの。すぐに戻ってくるけど、その間、カウンターをお願いできるかしら」
「分かりました」
「御免なさい、お願いしますね」
「はい」
ジョーイさんが携帯用の救急キットを持って駆け出して行く。
リカはジョーイさんに指示された通り、カウンターに立った。
リカは医師免許を取得するために勉強中の学生だ。
今は、このポケモンセンターで研修生として経験を積ませてもらっている。
――今日はいい天気だな……。
昼下がりの時間帯。
窓から差し込む陽光は暖かい。
晴天だ。
絶好の旅日和だろう。
旅をしているトレーナーが来そうだ。
「すみませーん」
予想通り、ポケモンセンターに、この辺では見かけない顔のトレーナーが入ってきた。
きっと旅をしているトレーナーだろう。
リカより少し幼い。
「お願いします」
「はい」
モンスターボールを専用の機材にセットしてもらう。
モンスターボールは五つ。
残り一つを埋めるように、ピカチュウがこちらの肩に移ってきた。
「え?」
「あ、すみません。このピカチュウはモンスターボールが苦手で」
「――あ、はい、分かりました」
モンスターボールに入りたがらないポケモン。
聞いた事はあるが、実際に対面するのは初めてだ。
相手の少年は眉尻を下げて、少し申し訳なさそうな顔をしていた。
――しまった、困らせてしまった……!
少年は別に悪くない。
授業でも習った事だ。
モンスターボールに入りたがらないポケモンもいる。
その際は無理にモンスターボールに入れたりせず、そのまま預かる事。
マニュアルで何度も読み込んだ注意点だ。
何も悪くないのに、少年に気を遣わせてしまった。
謝った方がいいだろうか。
いや、こちらが謝ったら、この少年はまた気を遣いそうな気がするし――。
考え込んでいると、不意に横からラッキーに脇腹をつつかれた。
「あ、はい、お預かりします」
モンスターボールをセットした専用の機材を持ち上げる。
カウンターの内側に引っ込み、専用の部屋に向かう。
「うーん……」
あの少年に謝るべきか。
首を捻ると、ピカチュウが小首を傾げてきた。
可愛い。
考えて悩んで混乱した心が、少しだけ落ち着いた。
少年から預かったポケモン達の状態をチェック。
怪我は無し。
健康状態も良し。
――目の輝きがキラキラしている……。
今まで何人ものトレーナーやポケモンを見てきた。
その経験で、目を見れば、そのポケモンのトレーナーに対しての気持ちが分かるようになった。
このポケモン達の目は、一際キラキラしている。
トレーナーの事を相当に信頼しているのだろう。
ただ強さを求め合う同志として信頼を寄せるだけじゃなく、心を持つ生物としても好意を寄せている。
凄い。
この目のキラキラは、滅多に見られないキラキラだ。
リカは素直に感心した。
回復を終えたモンスターボールを機材にセット。
ピカチュウを肩に載せて、カウンターに戻る。
「はい。回復、終わりましたよ」
「有り難う御座います。――ピカチュウ」
ピカチュウが少年の肩に飛び移る。
ピカチュウの目がキラキラと輝いている。
少年も笑っている。
何の曇りも衒いも無い、無邪気な笑顔。
何故か、胸が高鳴った。