ヒカリとジュンの家族は仲が良いので、毎年クリスマスはどちらかの家で合同で行う。
 今年はジュンの家だった。

「やっぱ、この季節は冷蔵庫より廊下の方が寒いよな」

 ジュンは廊下からケーキの箱とシャンパンの瓶を持ってきた。
 テーブルの上にケーキの箱を置いて蓋を開けると、中から現れたのはブッシュ・ド・ノエルだった。

「おいしそう」
「今年も腕によりをかけたからね。たくさん食べてね」

 ジュンの母は微笑んだ。
 ジュンは箱を閉じて、廊下に戻しに行った。
 ケーキはお披露目だけ。食べるのはメインの夕食を食べた後だ。
 そのメインの夕食を載せた大皿がテーブルの上に運ばれていく。
 チキン、スモークサーモンのサラダ、フライドポテト、サンドイッチ、おにぎり、グラタン、ピザ。
 まだまだ運ばれてくる。

「本当にたくさんありますね」
「そんなにたくさんじゃないだろ」

 え、とヒカリは顔を上げた。

「これはたくさんでしょ」
「いや、俺なら食い切れる」
「ジュンは育ち盛りだからね」

 多めに作ったのよ、とジュンの母はミトンを填めた手で微笑んだ。
 ヒカリの母のアヤコも微笑んだ。

「良かった、やっぱり男の子はたくさん食べるわよね」

 アヤコは自分の家で作って持ってきた料理をテーブルの上に置いた。
 ドン、と音が響く。
 まあ余ったら朝御飯になるか、とヒカリは思った。



 夕食は余らなかった。

「本当に全部食べた……」
「まだまだ食えるぜ。クリスマスはむしろこれからだろ」

 確かに、デザート――というより、メインの一種というべきだろうか、ケーキがまだ残っている。
 ヒカリはアヤコが淹れてくれた温かい緑茶を啜った。
 それにしても、とヒカリはジュンを見た。
 ジュンの身体は細い。
 これのどこにあんな量が入るのか。

「男の子はたくさん食べるのよ。女の子が驚くくらいにね」

 ジュンの母がヒカリの頭を撫でながら言った。
 女性三人が食べ切れなかった分までジュンはぺろりと平らげた。
 それでもまだ満腹ではないらしい。

「本当に驚きました」
「俺としちゃヒカリの方に驚きなんだけどさ。あれくらいしか食べなくて保つのか? シンオウ地方の住人なんだからたくさん食べねーと」

 確かにシンオウ地方は寒い地方だ。
 だから、たくさん食べてエネルギーを溜めておかないと、という風潮がある。

「……ちゃんと食べたよ」

 ヒカリはお茶を啜った。
 キッチンでジュンの母がブッシュ・ド・ノエルを人数分切っていく。

「今年もホワイトクリスマスになったわね」

 アヤコが窓の外を眺めながら言う。
 ヒカリも窓の外を見た。
 雪が降っている。

「シンオウ地方ではむしろホワイトクリスマスじゃない方が珍しいですよね」
「そうですね」

 全国放送のテレビ番組を観ながらアヤコは微笑を浮かべた。
 他の地方では雪が降るとホワイトクリスマスだと騒ぎになるらしい。
 リポーターが一通り喋り終わると、テレビの光景が変わった。
 きらきらと輝く光の景色が映る。

「イルミネーションか。綺麗だけど、明日でいいよな」
「そうだね。明日なら今日よりは混んでいないだろうし」

 ふふ、とアヤコが笑う。

「何? ママ」
「二人でイルミネーションか」

 ジュンの母がしみじみと呟く。
 ジュンとヒカリはボッと顔を真っ赤にした。

「べ、別にデートとかそういうのじゃなくて……!」
「そ、そうよ! 散歩代わりに行ってみようかなって、それだけ!」

 二人の母は顔を見合わせて、小さく笑った。
 デートなんて言ってないのに、と。

 
 


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