「暖房でチョコ溶けちまうから、こっちの方な」
「ん、有り難う」

 ジュンはチョコレートでコーティングされた方ではなく、サラダ味のスナック菓子の方を用意してくれた。
 暖房が効いて温まった部屋の中、カーペットの上に置いたクッションチェアに座って二人は向かい合う。
 今はフタバタウンのヒカリの自室であるため、二人とも上着を脱いだラフな服装だ。

「あーん」
「ん」

 ジュンに促される。
 ヒカリは素直に唇を開いた。
 差し出された菓子を銜える。
 ぽりぽり。
 ぽりぽり。

「……ん」

 二人の距離の物差しのようだった菓子が齧り尽くされ、二人の唇が重なった。
 ジュンは咥内に残った菓子を奥歯で噛んで飲み込んだ。
 差し出し合った舌の先端をつつき合って、離れる。
 離れる、といっても、空いた距離はほんの少し。
 鼻先と鼻先が触れ合う至近距離で、今度は見つめ合う。
 ヒカリの目が潤み、それに釣られたようにジュンが再び唇を寄せようとした――直後。
 コンコン、と部屋のドアがノックされた。

「ヒカリ、ジュン君。飲み物を持ってきたわよ」

 二人は慌てて離れた。
 ヒカリはカーペットの上に散らかった雑誌の一つの頁をパラパラと捲り、ジュンは手元のポケッチを弄る振りをする。
 ガチャリと部屋のドアが開けられた。

「あ、お、お母さん、有り難う」

 ヒカリは立ち上がって、アヤコの差し出すトレイを受け取った。
 アヤコは曇りの無い笑みを浮かべた。

「ゆっくりしていってね、ジュン君」
「あ、はい。有り難う御座います」

 アヤコは笑みのまま部屋を出た。
 パタンとドアが閉じられる。
 ヒカリはトレイを部屋のローテーブルの上に置いた。
 トレイには二つのマグカップがあった。
 家でヒカリが使うマグカップと、ジュン用にと食器棚に並んでいる色違いのマグカップだ。
 ジュンの方にはホットココアが、ヒカリの方にはホットレモンが入っていた。
 二人で飲み物を啜る。
 喉の渇きが潤されていく。
 カ、チ、コ、チ、と部屋の壁時計の音が響き渡る。
 秒針が三十回音を刻んだ後、不意に二人は俯いた。

「……何であんな事できたんだろ……」
「知らねェよ……」

 二人は顔を真っ赤にして手近なクッションに顔を埋めた。
 一度勢いにノるとイチャイチャできるが、一度冷静になると気恥ずかしさが一気に込み上げてくる。
 この辺りの行動パターンが似ているのは幼馴染みであるためか。それとも幼馴染みだから似るようになったのか。
 二人はしばらくの間、胸焼けのように満たす気恥ずかしさを払うため、のた打ち回った。


 


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