「狩屋。今日は調子良かったな」

「……別に。あんたに褒められたって……」

 親愛と恋愛感情の違いってのは一体どこだろうか。

 気が付けば、境を越えていた。

 戻れない所まで、進んでしまっていた。

「はは。ま、先輩からの褒め言葉って事で、有り難く貰っとけよ。あ、汗はちゃんと拭けよ、風邪を引くからな」

「分かってますよ、今拭こうとしたところですっ」

 あんたが悪い。

 愛に捨てられて愛を失った俺に、変に関わってくるから。変に優しくしてくるから。

 俺の心に、あんたの気遣いと配慮が染み込んで。

 それを勘違いして、ほだされた俺は、同性のこの人を好きになってしまった。

 先輩のせいだ。

 どうしてくれるんだよ。

「なあ狩屋」

「何ですか」

「最近、何かあったか?」

 ありましたよ。あんたへの劣情に気づいてしまいました。丸。

「は? いきなり何ですか」

「いや……何となく、だけどさ。最近お前、ちょっと元気が無いような気がするから」

「心配してくれるんですか? 先輩は優しいなあ。でも俺は至って健康です」

 どうしてあんたはそんなに性格が男前なんだ。

 どうしてあんたはそんなに容貌が可憐なんだ。

 一つでも何か要素が違っていたら、俺はきっと同性に恋をするなんて過ちは犯さなかったのに。

 百歩譲って。同性に恋をしてしまった事は妥協するとしても、何で相手が先輩なんだ?

 先輩にはもう大切な人がいる。

 身体を張って守るだろう、あの人のためなら剣にも盾にもなるだろう、それくらい大切にしている人がいる。

 なのに。

 何で俺は先輩を好きになってしまった?

 どうして俺だけが、こんな苦しい思いをしなきゃいけない?
 
「……狩屋、おい」

「何ですか」

「どこか痛むのか? 怪我したのか? だったら早くマネージャーに言わないと」

「はい?」

「……気づいていないのか? お前、今……泣いているんだぞ?」

 泣いて、いる?

 そっか。

 俺は泣いてるんだ。

 心があんまり痛いから。

 その痛みを和らげるために。

「……すみません。思い出し泣きです。タオル、タオルっと……あ、あったあった」

「お……思い出し泣き?」

「思い出し笑いの泣きバージョンですよ。すみませんね、ビビらせちゃって」

 ああ。

 霧野先輩への恋心よ、涙と一緒に流れ落ちろ。

 そうすれば、俺の心は楽になれるのだから。

 

 
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -