過去にきっと大変な目に遭ったんだろう狩屋は俺より大人で、俺より精神的には成熟していて、俺より冷めた寂しそうな目で世界を見ている。
年齢的には俺の方が一つ上だけど、学校では俺がフォローしたり理解したりと俺の方が年上らしく大人っぽく振る舞っているけれど、本当は俺より狩屋の方が、俺達を包み支配している世界ってやつを理解している。
きっと世界が牙を剥いて本当の残酷さを見せつけられた時、俺は狼狽して神童の姿を探すだろうけど、狩屋は世界をまっすぐに見つめて、そして歩いて行くんだろう。
神童、狩屋、と俺は力無く呟くだけ。
傍に二人がいてくれれば俺は強くなれるけど、狩屋に目線も向けてもらえず、一人で行くのが当たり前という感じでさっさと先に進まれてしまったら、俺は寂しさで押し潰されてしまうかもしれない。
お前の傍にいられるのは嬉しくて。
お前の事を受け入れると、年上として目線が一つ上に立てる。

けど。
いざという時、お前は俺の傍にいてくれるだろうか。
ひょっとしたら、ああ俺の道はこの先にあるのか、じゃあ行かなきゃな、って軽い感じに、行ってしまうのかもしれない。
戸惑う俺を置いて。
ここから先は一人で行かなきゃいけないんだと、背中で伝えるように。

「人はどうあってもどこまで行っても独りなのに。結局。そうなのに」

家電量販店のウィンドウに整然と並べられたテレビが映し出す流行りのホームドラマをじっと見てから、狩屋がぽつりと呟いた。
俺の耳はそれを聞きつけた。敏感に、繊細に。一つとして漏らさずに狩屋の声や言葉を全て拾い上げる。
けど、それは俺に向けられた言葉じゃない。
だから何も言わない。

たかがホームドラマに何を真剣に語っているんだろう、とは思わない。
ただ、その独り言が俺に向けられたなら、俺は何か答えてやれるのに。
中学二年生の、当たり前で綺麗事で世間知らずな、いかにもガキっぽい事しか言ってやれないだろうけど。
……いや。
きっと俺が二十代で社会人でちゃんとした大人でも、狩屋は何も言ってこない。
狩屋は肝心な事は俺には何も言ってこない。
自分の傷やら過去やらを他人にひけらかすタイプじゃないし、もしかしたら他人には喋らないと決めている。
いつか。
いつか俺は、本当の意味で、狩屋の傍に寄り添う事ができるんだろうか。
  
「……すみません、ぼうっとしていました。行きましょう、先輩」

にこっと微笑んで、狩屋が歩き出す。
先へ。
道の先へ。

これから俺達は、学生として生温い日常に浸りつつ、世界の中を進んで行く。
幸せも不幸せも、何もかも色々とあるんだろう。
その中で、俺はどれだけ長く狩屋の傍にいられるだろうか。

何も見えない未来が、少しだけ怖い。


 

 
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