十数メートル先の所でヒコザルが待っていた。
もはや定位置のように木の枝に載っていて、アヤトの姿を見つけると笑みで手を振ってくる。

「御免な、最初からああで」

追いついたアヤトは荒れた呼吸を整えながらヒコザルを見上げて話しかけた。
自分だって最初のポケモンバトルがああなるとは予測していなかったのだ。
しかし確かに相手は野生である。
会場で区切られ整えられたリーグ大会のように一対一で来るとは限らないのだ。
それこそ向こうは命懸けなのだから。
アヤトがヒコザルの顔を見ると――ヒコザルの表情は曇っていない。
ことりと小首を傾げたが、特に機嫌が悪くなったなどの様子は無く、笑っている。

元からバトルが好きじゃない、とか?
それか……あんまり真剣じゃない、のかな?

ヒコザルの気持ちをアヤトが計りかねていると、ヒコザルがちょいちょいと腕を回し、アヤトの目線を惹いてから腕をまっすぐに伸ばす。
何? とアヤトがその方向を見ると、草むらと獣道の道が続いていた。
201番道路。
あれだけ走ったのに、道のりは続いていて、そして長い。
ヒコザルはその方向を見ている。
先へ。
前へ。

「……そうだな、行こうか」

とにかく行こう。
アヤトが気を取り直して言うと、ヒコザルが元気良く鳴いた。
ひょいひょいと枝を伝って進んで行く。
アヤトは、今度は走らず、徒歩で進み始めた。
ヒコザルは、先へ先へと突っ走らず、アヤトの斜め前をキープするように、それこそ歩きより慣れているといった感じで枝を伝い渡って行く。
アヤトが三歩進む度に、ヒコザルが一つ次の枝へ飛び移る。
アヤトはヒコザルを見た。
人間より小さな身体で、人間とは異なる力を持っていて、言葉は交わせても、互いの言語は分からない種族。
ポケモン。
人間は大体ポケモンが好きだ。旅をせず、一つの町に定住しているトレーナーも、自分と最も仲の良いポケモンをパートナーとして据えて、一緒に生活している。
なら、ポケモンは?
時に人間と親しみ、時に人間と戦い、時に人間に傷つけられるポケモンは、人間という種族そのものをどう思っているのだろう。

ヒコザルは?
俺に選ばれた事、どう思っているんだろ……。
  
今のところ、ヒコザルの性格が、良く分からない。
先程は、こちらを励ます優しい心遣いというよりは、一緒に行こうよと寄り添う思いを感じた。
ポケモンバトルで張り切ったかと思えばこちらの意見も聞き入れてくれて、かと思えば先に行ってしまうし、しかし今はこうして一緒に進んでいる。
総括して、良く分からない。
ポケモンは人間と同じように心を持つ。
むしろ、人間より純粋な心を持っているかもしれない。
そこに言葉が分からないという壁があると、更に分からなくなる。
どうしたもんかなぁ、と思っていると、ふと、道の先、草むらの陰に一人の女性を見つけた。
パチリと目が合う。
女性がにこりと微笑んだ。
アヤトとヒコザルが近づくと、その笑みが濃くなり、

「わたくし、フレンドリィショップの店員です! ポケモンの体力が減ると、戦う元気が無くなります。そんな時は傷薬を使ってあげるといいですよ!」
「傷薬?」
「はい。という事でサービスです。傷薬、お一つどうぞ! バッグの回復ポケットに入れておいて下さいませ!」
「あ、どうも。……フレンドりィショップ、ですか」
「ええ。フレンドリィショップはいろんな町にありますからね」

フタバタウンには無かった建物だ。
雑誌やらテレビやらで存在だけは知っていたが、こうして商品を実際に手に取ったりしたのは初めてだ。
アヤトは傷薬をリュックにしまった。

「どうも、有り難う御座います。……行こうか」

ヒコザルが笑顔で頷く。
それに釣られて、アヤトの口元に笑みが零れた。


 

 
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -