何だかんだでテンションを上げて、201番道路を走った一人と一匹。
ようやく旅を満喫し始め――ようとしたアヤトの進路先の茂みがガサガサと揺れ、一匹のポケモンがぴょこっと姿を現した。
全体的に茶色くて、小さい、体型や姿はヒコザルとは全く別だ。

「ええと……あれ何だっけ!?」

走りながらアヤトは考えた。
実は今までポケモンのバトルの大会やコンテストはテレビで観てきたが、菓子を食べながらのんびり観ていただけなので、ポケモンの名前とか種族とかいちいち覚えちゃいない。
端的に言えば、勉強なんてあんまりしてこなかったのだった。
確かあのポケモンはシンオウ地方のこの辺りで生息していて、水辺とか地上とかその辺りにいて、それで肝心の名前は何だっけ!?
何だっけ何だっけ、と考えながら走っていると、そのポケモンの後ろで茂みがまたガサガサと鳴った。
ひょっこりと、姿形が同じポケモンが、二匹、三匹、四匹と現れる。
もしかして御家族!? とややテンション高めに思った直後。
その五匹の目の色がぎらりと変わった。
瞳は変わらないのに、そこに映る感情が五匹一斉に一色に染まる。
敵意。
巣に入るものを追い出せ、と。

「! ヤバい、来るぞヒコザル!」

野生は甘くないとジュンに言おうとしたのは自分の方だったのに。
口で言っている分では確かに楽だった。
後悔しながら、アヤトは反射的にヒコザルの名前を呼んだ。
はしゃぎながら木の枝を伝って渡っていたヒコザルが一つの木の枝に足を引っかけ、回転し、下に落ちて着地する。
アヤトの前に。
そして、野生ポケモンが来る。

「引っかく=I」

指示を受けてヒコザルが動く。
まず突進してくる一匹の顔面を爪で引っかき、次いで二匹目、三匹目の体当たりをひらりひらりと軽い身のこなしでかわすと、軽くジャンプしてバック転をし、アヤトの足元に戻る。
アヤトの血流がずくんと疼いた。
あれが野生ポケモン。
これがポケモンバトルか。
しかし……今は、数が不利というか……何というか。

「……ヒコザル」

ヒコザルがこちらを見上げてくる。
なぁに? という無邪気な顔。
特に好戦的な表情は、見られない。
俺の考えを聞いてくれるかな、とアヤトは腹の奥の辺りが縮こまるのを感じた。
手持ちのポケモンには好かれたい。
けど、今のこの状況は、冷静に考えると少しきつい。

「あのさ、今、五対一なんだよな」

うんうん、と頷くヒコザル。

「で、さ。ちょっとこの状況はきついから……逃げようと思うんだけど。ほら、俺、今はお前しかいないんだ。けどあっちは五匹。かなり厳しいと思う」

ふんふん、と頷くヒコザル。

「だから、まあ……初めてのバトルなのに申し訳ないんだけど、ちょっと思いっきり走って逃げようと思うんだけど。いいかな?」

ヒコザルは頷いた。
ぴょんとジャンプして頭上の木の枝に飛び移る。
分かってくれたか!? とアヤトが喜んだ直後。
ヒコザルはひょいひょいと木の枝を伝って遠ざかって行った。
先に行ったのだ。

「……ちょっと待った、待って、待って待ってえええええ」

アヤトは全力で駆け出した。
先程まではペース配分を考えて走っていたが、今はそんな事は気にしていられない。
というより今ここで逃げ切れなければ本当にヤバい。
しかもヒコザルはこっちに振り向きもせずに悠々としたスピードで先へ先へと行っている。
確かに逃げるって言ったのは俺だけど。俺だけど!
ひょっとして俺の事、トレーナーって思ってない!?

「……あ!」

不意に思い出した。
駆けながらくるりと振り向き、

「取り敢えず御免な、縁があったらまた会おうぜえええええ」

身構えたままぽかんとしているビッパ五匹の家族に声だけ送り、アヤトはヒコザルのあとを追って行った。


 

 
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