勉強して大体の基礎知識を詰めて、トレーナーとのバトルにも勝って、教師の女性から「合格です」の一言を貰えたアヤトはトレーナーズスクールを出た。
ジュンの言っていた言葉を思い出す。
クロガネシティのジム。
何も言っていなかったが、多分、ヒカリもそこに行くのだろう。
――俺はどうしようかな。
旅をするトレーナーはジムバッジを集めるのが目的の一つ。だが、この辺りは任意で、決して強制ではないという。
だが、シンオウ地方では一定以上のジムバッジを持っていた方が、移動に不可欠な秘伝技を扱う事ができて便利らしい。
ジュンは自分の力を蓄え、試すためにジムに行くという感じだが……。
俺はどうしようかな、と再度思う。
上着のポケットには、ナナカマド博士から貰った藤色のポケモン図鑑がある。
ポケモン図鑑は完成させたいし、シンオウ地方の色々な所を巡ってみたい。
なら、やはりジム戦はこなすべきか。
じゃあ先の町に進もうかと歩き始めた途端。

「おやー? 貴方、ポケモントレーナーなのにポケッチを持ってない?」
「え?」

目の前にいきなりピエロが立ち塞がった。
アヤトはぎょっとして立ち止まった。

「ポケモンウォッチ、縮めてポケッチ! それにしても珍しいねー。おじさんね、ポケッチ作ってるんだよ! それでポケッチのキャンペーンしてるよー! コトブキシティにいる三人のピエロを探し出してねー。そうすれば君にもポケッチをプレゼントしまーす!」
「ポケッチ? ピエロ?」
「三人のピエロはそれぞれ簡単なクイズを出すよー。ポケッチはトレーナーのためのグッズだからね、やっぱりポケモンに詳しくないとねー。で、引換券三枚揃ったらおじさんに話しかけてねー」

要は、ピエロを探して引換券を貰ってこい、と。
何か貰えるのは、まあ事実らしい。
にこにこと笑うピエロに半ば気圧されて、アヤトは思わず頷いた。
くるりと方向転換をして、コトブキシティ中を歩き始める。
先程に出たばかりのトレーナーズスクール。
ポケモンセンター。
いないなぁ、と小首を傾げていると、フレンドリィショップ前に、先程に会ったばかりのピエロと同じ服を着て同じ格好をしたピエロがいた。
――あの人、かな……?

「あの」
「はい、ポケッチキャンペーンです。では早速、クイズをば!」
「え? えっ?」
「ポケモンは、ポケモンを倒す事で経験値を得て強くなる?」
「えっ、えーと……うん」
「ピンポーン! 正解です。ポケモンは他のポケモンを倒す事で強くなります。中には強くなる時、進化といって姿形を丸っきり変える時もあります。では、このポケッチの引換券をどうぞ!」

にっこりと微笑みながらピエロがアヤトの手を取って、掌に引換券を載せる。
アヤトは半ばされるがままに引換券を受け取った。

「えーと、これをあと二枚?」
「そう! あと二枚! 頑張ってポケッチをゲットしてね!」

愛嬌たっぷりにピエロが言う。
アヤトは小さく一礼をして、またコトブキシティ中を巡り始めた。
フタバタウンともマサゴタウンとも全く違う、人が多く、ビルが多く立ち並ぶ、雑多な町の中を歩いて行く。
ふと、トレーナーズスクールの後ろに、特に際立って高い二つのビルが目に入った。
チカチカと点滅する巨大スクリーンが掲げられたビルと、出入口が二つあって、その上に旗が四本建てられた少し派手な外見のビルだ。
先程の一人目のピエロは建物の近くにいた。
なら、二人目と三人目も建物の近くにいるかもしれない。
そう思って、派手な方のビルに寄ってみると、遠目でも分かる派手な格好のピエロがいた。

「はい、ポケッチキャンペーンです。では早速、クイズをば! ポケモンだけでなく、ポケモンの技にもタイプがある?」
「はい」
「ピンポーン! 正解です。ポケモンのタイプと技のタイプが同じだと威力が高まるのです! では、このポケッチの引換券をどうぞ!」

2、と大きく書かれた引換券を貰えた。
1の引換券と一緒に手の中にしっかりと持って、今度は巨大スクリーンを掲げたビルの方に目線を向ける。
と、思った通り、ピエロがいた。

「はい、ポケッチキャンペーンです。では早速、クイズをば! ポケモンに道具を持たせる事ができる?」
「はい」
「ピンポーン! 正解です。ポケモンは一つだけ道具を持つ事ができます。道具の種類によって持つだけで効果が表れたり、木の実のように戦っている時にポケモンが勝手に食べたりします。では、このポケッチの引換券をどうぞ!」

3の引換券を受け取った。
引換券が三枚揃った。あとはこれを渡せば、ポケッチとやらが貰える……らしい。
流されたような感じが否めないが、まあ貰えるのなら貰っておきたいところ。
フレンドリィショップの前に戻ると、最初のピエロと、その隣にスーツ姿の中年男性がいた。
取り敢えずアヤトが引換券三枚を渡すと、きっちりとスーツを着込んだ中年男性の方がそれを丁寧な手つきで受け取って、

「引換券数えるよー! ではポケッチを使って……一枚、二枚、三枚! 御見事だねー! では引換券を貰って、貴方にはポケモンウォッチ、縮めてポケッチをどーぞ!」

ピエロが腕に抱えた小さなトランクケースをパカリと開ける。
中にはクッション材が敷かれ、種類こそ同じだが、色が異なるポケッチがずらりと並んでいた。

「貴方、運が良い! 実は今、ポケッチの販売と宣伝の強化キャンペーンを考え中で、今だけポケッチのカラーが大増加! という事で! ボーイズモデルは青だけど、他の好きな色を選んでもいいよ!」
「え? いいんですか?」
「試供品だけどね! でも機能や性能は全く同じだから! これ一つっきりだから、本当に運が良いよ〜! 早い者勝ちだしね! 君が一番!」

ピエロもスーツの男性もハイテンションである。
――そこまで言うのなら貰おうかな。
アヤトは腰を屈めて、ピエロの掲げ持つトランクケースの中を見た。
ボーイズモデルの青と、恐らくはガールズモデルなのだろう赤。
他には、ピンク、オレンジ、黄色、黄緑、緑、水色、青、紫と、虹の各色が揃っている。
あとは、少しくすんだ黄色のような金色に、濃い灰色のような銀色。
そして、シンプルな黒と白。
他にもいくつか、色と色の合間の、複雑で細かい薄さや濃さを絶妙に表したカラーもある。

「じゃあ……これ」

アヤトが選んだのは、赤とピンクの近くにある、少し薄い色だった。
どこか儚く切ないくらいに、淡くて美しい色。

「桜色とは御目が高い! さっきも言ったけど早い者勝ち!」

中年男性がトランクケースから、先程より更に増して丁寧な仕草でポケッチを取り出してアヤトに差し出す。
その顔はにこにこと笑みを浮かべていた。
アヤトは左手首にポケッチを着けた。
ボタンを押すと、パッと画面が表示される。

「ポケッチにアプリを追加すると、できる事が増えていくよー! どんどんタッチしてお気に入りのアプリを見つけて下さいねー!」

そうだ、と中年男性は続けて言った。

「今、新しいアプリを考えているんだけどね。何となくのイメージだと、君がジムバッジを手に入れた頃、新しいポケッチアプリができる。そんな感じだねー!」
「はい?」

アヤトがどういう意味かと顔を上げた時、ピエロと中年男性はトランクケースをしまって去って行く所だった。
左腕に、軽量ではあるが、しかし確かな、慣れない重みがくる。
ポケッチを見ると、画面は時計の機能を表示させていた。
結構、便利かもしれない。
貰えた桜色も、いざ手首に着けてみるとますます気に入ったし、
――いい物、貰えた。
ジュンやヒカリに遅れてばっかりだけど、やっぱりマイペースが一番。
そう思って、アヤトは小さく笑みを零した。


 

 
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