フタバタウンからマサゴタウンに行く。
その途中の草むらで、今度は野生ポケモンときちんとバトルを交わしつつ、着実に勝ちながら進んでいく。
最初は不慣れだったアヤトも、マサゴタウンに着いた頃には大分慣れて、指示を出すタイミングなども板についてきた。
普通より気性が荒めのムックルが奇襲を仕掛けてきた時に驚いて尻餅をついてしまったり、ビッパの体当たりを腹部に受けて吐き気を催してしまったというアクシデントもあったが、傍のヒコザルが宥めたり腹をさすったりしてくれたので、少し休めば立ち上がって再び歩き出す事ができた。

「有り難う、ヒコザル」

アヤトが言うと、アヤトの肩に載っているヒコザルは笑顔で頷いた。
小さな手を伸ばして、アヤトの頭を撫でてくる。

「あははっ、有り難う」

ポケモンに頭を撫でられる。
不思議だけど、悪い気はしなかった。
アヤトが指先でうりうりとヒコザルの頬をつつくと、ヒコザルもはしゃいだ声を上げる。
スキンシップが好き、らしい。
可愛い奴だ。
二人で戯れている内に、マサゴタウンにはあっという間に着いた。一度、二度、三度と歩く内に、道のりも短く思えるようになってきた。
――さて、ヒカリとジュンはコトブキシティ、か。
コトブキシティってどの辺りだろう、とアヤトが思った時、マサゴタウンから伸びる道の所に、一人の友人の姿を見つけた。
アヤトの後ろには、フタバタウンへと繋がる道。
という事は、あの道はまたどこか違う町へ繋がっているのだろうか。

「……あ! アヤト! こっちこっち」

アヤトに気づいてコウキが手を振る。
アヤトはコウキの元に近づいた。

「アヤトってポケモンの捕まえ方のコツ、もうバッチリ分かってるのかな?」
「いや」

アヤトは素直にふるふると首を横に振った。
バトルの流れなどは大体分かってきたが、確かにポケモンを捕まえた事はまだ無い。

「僕がポケモンの捕まえ方を教えてあげるよ」
「本当か?」
「うん。捕まえたいポケモンはいる?」

流石は先輩トレーナー。
アヤトは思いがけないサプライズに喜んで笑みを零しつつ、捕まえたいポケモンか、と考え始めた。
捕まえたいポケモン。
仲間にしたいポケモン。

「……うーん」
「迷っているなら、コリンクとかはどうかな?」
「コリンク?」
「この先の202番道路にいるよ。電気タイプで、進化前だから育てるのもぴったりだと思うけど」
「へえー……」

コリンク。
電気タイプ。
――ヒコザルは……。
アヤトはポケモン図鑑を取り出した。
記念すべき第一回目の操作。

【ヒコザル
 こざるポケモン
 とても身軽なポケモン。周りが燃えないようにお尻の炎を消してから眠る】

タイプは炎。
なら、バランスを考えるとしたら、炎タイプ以外のポケモンを捕まえておいた方がいいだろう。

「……うん。そのコリンクを、ゲットしたい……かな」
「オッケー。じゃ、202番道路に行こうか」

コウキが202番道路を指差す。
アヤトはコウキの後について、202番道路に入り、草むらに入った。
人間二人が歩くと、茂みが擦れ合って、がさがさと音が立つ。
コウキがモンスターボールを一つ持って身構える。
と――。
茂みの奥からひょっこりと、一匹のポケモンが姿を現した。
ビッパでもムックルでもない。四本の足ですっくと立っていて、身体は全体的に水色っぽい青色を帯びている。
耳と思しき部分と足首の毛の部分は黄色で、尻尾は光か雷のような形状をしていた。
アヤトはポケモン図鑑をコリンクに向けた。
コリンク、と名前だけが出る。

「ポケモン図鑑を完成させるためには、一度ゲットする必要があるんだ」
「え? あ、成程ね」

コウキの解説に頷いてポケモン図鑑をしまう。
と、足元に何か違和感。
摩擦のような熱を感じる。
ズボンの内側の裾と皮膚が擦れ合っているのだ。
コウキが何故か目をパチクリと瞬かせている。
目線を辿って見下ろしたアヤトも、遅れて驚いていた。

「えーと。コリンク、ちゃん?」

野生のはずのコリンクが、アヤトの足元に擦り寄っていた。
すりすり、と頬をズボンの裾に擦りつけて、甘えたような目でこちらを見上げてくる。
きょるんと愛らしい表情だ。
アヤトは右肩のヒコザルを見た。
パチリと目が合うと、ヒコザルはふるふると首を横に振って、アヤトの方を指差す。

「俺?」

ポケモンのヒコザルじゃなくて? とコリンクを見下ろすと、コリンクがこくこくと頷いた。
パアアアッと光が花咲いたような表情で淡く鳴く。
目はこちらをまっすぐに見つめてきていて、キラキラと輝いている。
可愛い。
ものすっごい可愛かった。

「うああああ可愛いぃぃぃぃぃ」

膝を折って屈み込んで抱き締めてうりうりと頬擦りをすると、耳元でコリンクの鳴き声が聞こえた。
コリンクの方からもすりすりと鼻先を押し付けてくる。

「可愛い可愛い超可愛いよぉぉぉぉぉ」

絶頂まで舞い上がったテンションに身を任せてアヤトは頬擦りを続けた。
やがて、不意にツンと痛みを感じて、アヤトはハッと我に返った。
コリンクの顔から頬を離すと、肩のヒコザルが緩く首を振って溜息をつく。
ヒコザルの手がアヤトの髪の一房を掴んでいた。
どうやらそれを引っ張ったらしい。
アヤトの頭に急速に、いつもの、冷静さのようなクールさのようなドライさが戻ってきた。

「……あ、うん、有り難うな」

ヒコザルがうんうんと頷いた。
何というか、仕草がとても人間っぽい。
俺と一緒にいるからかな、とアヤトが思っていると、コウキが苦笑いしていた。
手には自分のモンスターボールを持っている。
コリンクが出る直前の状態のまま、待ってくれていたらしい。

「ええと……それでそのコリンク、ゲットする?」
「えっ? あ……そういえばそうだった」

そういえば野生のポケモンをゲットしようとしていたんだった。
アヤトはようやく肝心の目的を思い出した。
屈み込んだ姿勢のまま、抱き締めていたコリンクをそっと草の上に下ろす。
コリンクはなおもじっとアヤトの事を見つめてくる。
アヤトはベルトに取り付けている縮小状態のモンスターボールを取り出した。
スイッチを押して拡大状態にさせる。
一つきりのこれは、ヒコザルのモンスターボールだ。

「あのなコリンク。俺と一緒に来てくれる?」

コリンクはすぐに頷いた。
目はまだキラキラと輝いている。

「俺もコリンクが一緒に来てくれると嬉しいんだけど、そのためには、このモンスターボールに入ってもらわなきゃならないんだ」

掌にモンスターボールを載せて、コリンクの鼻先に近づける。
コリンクはこくんと頷いた。

「アヤト、これ」

コウキがモンスターボールを一つ手渡してくる。
アヤトは有り難うと呟いて受け取った。
改めて、今度は空の状態のモンスターボールをコリンクに近づける。
コリンクはくんくんと匂いを嗅いだ。
そして。
鼻先でスイッチを押した。
カチリと金属音がして、スイッチの部分から放たれた赤い閃光にコリンクが飲まれ、モンスターボールの中に入る。
二回、三回とモンスターボールが震えて――。
スイッチの部分の赤い光が消え、震えもぴたりと止まった。
アヤトは両手を伸ばして、モンスターボールをそっと持ち上げた。
コウキの方を見る。
コウキは笑顔で一つ頷いた。

「うん。ゲット成功だよ」

アヤトはどこかふわふわしたような気持ちで手の中のモンスターボールを見つめた。
ヒコザルの方を見る。
ヒコザルも笑顔で頷いてくれた。
口元に自然と笑みが零れる。

「ふへへへへへへ」

ヒコザルが苦笑いで首を横に振る。

「え? 駄目? 今の気持ち悪かった?」

苦笑いでうんうんと頷かれる。
アヤトは肩を落とした。

「……っと、そうだ。有り難うコウキ、最初のゲットに付き合ってくれて」
「構わないよ。ポケモンをゲットするコツ、今、教えておくね」

コウキは要点を掻い摘んで話した。
野生のポケモンをゲットする際には、なるべく体力を減らしておいた方がいいという事。
元気一杯のポケモンはゲットしにくいという事。
眠りや麻痺などの状態以上にしておくと、ゲットしやすくなるという事。

「アヤトにモンスターボールを四つあげるよ。ポケモンがたくさんいれば遠くまで行ける。そうすりゃもっとたくさんのポケモンに会えるからね。じゃーねー!!」

コウキが手を振り去って行く。
アヤトは手を振ってコウキの背中を見送った。
肩のヒコザルに話しかける。

「じゃ、ポケモンセンターに行こうか」

ヒコザルが小首を傾げる。
行かないの? と、多分そう言っているのだろう。
アヤトは眉尻を下げて、左手の人差し指を空に向けて立てた。
ヒコザルが空を見上げる。
太陽が落ちて、空はゆっくりと茜色に染まりつつあった。

「もう夕方だ。これから外を歩くのはちょっと危険だし、ポケモンセンターに泊まってゆっくりしよう」

な? と問いかけると、ヒコザルは大きく頷いた。
多分、それもそうだな、とか、そういう辺りの事を言った……んだと思う。
多分。


 

 
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