ポケモンセンターから出て、フタバタウンに向かう。
途中、段差を見つけたので飛び越してみると、近道だったらしく、あっという間にフタバタウンに着いた。
マサゴタウンよりも小さい、穏やかで、のどかな町。
旅立ったのは今日の出来事のはずなのに、何だか随分と懐かしかった。

「ただいまぁー」

扉を開けると、母が振り向いた。
リビングの椅子に座って、テレビを見ながらお茶を飲んでいる。

「お帰りなさい」
「ピッチュ」

テーブルの上でおやつを齧っていたピチューがこちらを見る。
母はいつもと変わらない、にこにことした笑顔だ。
――何か、散歩から帰ってきたみたいな……。
こちらは旅の途中で帰ってきたのに、二人の反応はまさしくそんな感じだ。
だけど旅に出たのは今日だしなあ。
確かに、久し振りと言うにはまだ間が空いていない。

「ちょっと、話しておきたい事があってさ。それで一旦帰ってきたんだ」

アヤトはハウチング帽子だけ脱いで話し始めた。
マサゴタウンまで行った事。
ヒコザルが懐いてくれているという事。
ナナカマド博士に、ポケモン図鑑を貰ったという事。
母は笑みで相槌を一つ一つ打ちながら、長い話を最後まで聞いてくれた。

「……そう。あのナナカマド博士から、頼まれたの。凄いわねえアヤト。あ、でもこれはトレーナーの宿命かもしれないね? ふふふっ」
「母さんも、ポケモン図鑑を持って旅をしたの?」

かつて旅をしたという事は聞いているが、どういう博士に会ったか、ポケモン図鑑を持っていたかどうか、その辺は話題に上らなかった覚えがある。
アヤトが尋ねると、母は笑みを濃くした。

「アヤトの旅が一区切りついた時に、教えてあげる」
「……分かった。楽しみにしとくよ」
「そんなに大した話でも無いんだけどね〜。まあ……身体に気を付けて頑張って。冒険ノートとタウンマップは、無くしていないわね?」
「大丈夫」

というか貰ってから一度もリュックから出していない。
だから紛失の恐れは無い。

「アヤト、旅を思いっきり楽しんできて。でも、疲れたり、懐かしくなったりしたら、いつでも帰ってきていいんだからね」
「……うん」

一つ頷く。
ハウチング帽子を再び被った。
せっかく家には帰ったが、すぐに出ようと思った。
旅に出たのだから、家ではなく、ポケモンセンターに泊まろうと、そんな変な意地と矜持がある。
パチリと目が合うと、母は微笑んだ。
どうも見透かされているらしい。
血は繋がっていても他人同士と、親子の事をそう言う人はいる。
しかし、やはり子であるためか、この母には自分の考えている事を見抜かれる事が多い。
何か一生叶わない気がする、と思い始めた時、不意に来客が訪れた。

「すみませーん。こちらにジュン来てます?」
「うちのヒカリも……」
「あらあら御二人揃って。来てないけど?」
「そうですかぁ。じゃあもう行いっちゃったんだ。困ったなぁ……」

ふぅ、と溜息をつくジュンママとヒカリママ。

「あの子、冒険するから! って、それだけ言って飛び出しちゃって。向こう見ずで無鉄砲だから、これだけは渡しておきたかったのに」
「うちのヒカリとニアミスになっちゃって。ヒカリがもう少しいてくれればヒカリに任せられたんだけど」
「ジュンとヒカリ、帰ってたんですか?」
「ええ。さっき言った通り、飛び出しちゃったけどね」
「うちのヒカリも。あの子、何だかやる気満々で」

ひょっとして、ひょっとすると……ビリかもしれない。
――い、いや、俺は俺、俺のペース!
ジュンのペースに付き合っていたら身体がもたない。

「大丈夫。アヤトが届けるから。ね?」
「あ、うん。――俺が責任を持って届けます」
「そお? じゃあ、お願いしちゃっていい? アヤト君、これジュンに届けてね」

御届け物を受け取った。
少し大きめのサイズの封筒だが、リュックにはちゃんと入る。

「多分、コトブキシティにまっすぐ向かってると思うわ」
「ジュンの事、宜しくね」

二人のママさん達は去って行った。
アヤトは御届け物をリュックに詰めた。
リュックを背負い直し、

「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「ピチュー?」

ピチューが小首を傾げる。
また御散歩に行くの? そんな大荷物で?
訝しげに瞬く瞳からそんな言葉が聞こえてきて、アヤトは小さく苦笑した。


 

 
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