家の玄関から外に出る。
ポケギアを取り出す。
電波状況を確認。良好。
コールすると、相手はすぐに出てくれた。
「もしもし。ワタルさん。――明けましておめでとう御座います」
『明けましておめでとう』
ユリは空を見上げた。
空の端が薄く明るくなっている。
「ワタルさん、今日はポケモンリーグ本部の会合でしたっけ」
『違うよ。ポケモンハンターのアジトの検挙。俺もまさか正月に仕事が入るなんて思わなかったよ……』
溜息が聞こえてくる。
正月だが、急用の用件が入ったので、ワタルはそちらに出張中だ。
ユリとしては、正月にこそ休んで欲しいところだが、代わりというように先週のクリスマスはゆっくりと過ごせた事を思い出す。
まあ一から十まで都合の良いようにいくはずがない。
ユリはスッパリと未練を断ち切った。
『ユリちゃんは?』
「診療所は正月も空いていますよ。ポケモンセンターが開いていますけど、うちはその査定を受けるので、それに付き合うような感じで。それに冬なので、風邪を引く患者のポケモンもまだまだ多くて」
水平線から光が見える。
朝日の光だ。
「ワタルさん」
『ん?』
「今更ですけど、良く付き合ってくれましたね。こんな早朝の通話に」
『ユリちゃんとの通話だから。一緒にはいられないから、その分』
いつも通りの口調と声で、さらりと言ってくる。
ユリは一瞬、息に詰まった。
「……ね。ワタルさん」
『何だい?』
「私、今、朝日を見ているんです。――ワタルさんは?」
『見ているよ。……綺麗だね』
「今日はくっきりと晴れましたね」
『そうだね』
空には雲一つ無い。
綺麗な朝日の、正月になった。
『――そろそろ行ってくるよ。新年で油断しているだろう今の内にアジトを強襲する作戦なんだ』
哀れポケモンハンター。
まさかチャンピオンが強襲してくるなんて予想していないだろう。
『新年最初の御仕事、頑張って下さいね』
「ああ。――じゃあね」
『はい』
通話を切る。
ユリは空を見上げた。
朝日が、高く昇っていく。
「……新しい年だね」
一年が始まる。