「おいしいです、これ。有り難う御座います」

 リーグ本部の私室。
 茶菓子のマシュマロを一つ口に入れて、ユリは微笑んだ。
 何の衒いも無い、無邪気な笑み。
 普段がクールで大人っぽいので忘れてしまう時もあるが、そういえばユリはまだ十代なのだ。
 ユリは気に入らない言い方になるかもしれないが、年相応の子供っぽい笑顔だった。

「おいしいかい?」
「はい。おいしいです」

 ワタルは片手を伸ばした。
 それを見て、ユリはマシュマロの袋をワタルの方に差し出した。
 マシュマロを食べたがっている、と判断したのだろう。
 何の疑問も抱いていない微笑だ。
 ワタルの手はそのまま伸びた。
 マシュマロの袋は素通りして、その先のものをつつく。
 ぷにゅぷにゅ。

「……え?」

 むにゅむにゅ。
 ワタルは指先で、ユリの頬をつっついた。
 ふにゅふにゅ。
 みにゅみにゅ。
 マシュマロのように柔らかく、滑らかな頬だった。

「……あの」
「何だい?」

 つっつくのやめて下さい、と言おうとして、ユリは思わず口を噤んだ。
 ワタルが、いつもの大人びた笑みではなく、珍しく無邪気な笑みを浮かべていた。
 随分と楽しそうである。
 ユリは取り敢えず甘んじて、頬へのつっつきを受け入れる事にした。


 

 
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