変わった子だな、と思った。
頭が良いな、とも思うが、それより変わっていると思う。
こちらの予想から離れた、意表を突くような事を訊いてくる。
――経緯か。
大抵の相手は「貴方の事を知りたい」と言ってくる。
しかしユリはこう言ってきた。
(――ワタルさんの経緯とか、一通り教えてもらえないでしょうか?)
昔の事、ではなく、経緯と言ってきた。
良く言えば新鮮味がある。
敢えて悪く言うなら、不自然に大人びた物言いだ。
一通り、と言い方も、こちらの気分で内容を纏めて、話をしてくれればいいという意味だ。
経緯。これまでの人生。
「――フスベで産まれて、育って。次の長老になる身として、教養を受けて。それからはドラゴン使いとしてバトルを重ねて……セキエイリーグのチャンピオンになった」
そして、グリーンに負け、レッドに負け。
そのグリーンもレッドに負けた。
レッドがチャンピオンの座に居座らなかったため、現在は再びチャンピオンになり、活動している。
「……というところかな」
取り敢えず端的に纏めて言うと、目の前の少女は頷いた。
ユリ。恐らくは十代中頃の少女。自分とは歳も離れている。
だが、一緒にいて退屈しないのは何故だろうか。
思えば最初からそうだった気もする。
最初に会った頃は敵意を向けられたが、今では大分緩和されているようだ。
羨望や嫉妬ならいくらでも浴びてきたが、今にして思ってみると、敵意というのは珍しい。
――どこかで遺恨でも受けたかな。
フスベは内向的な土地柄だ。
それ故に、過去には様々な業がある。
ユリ本人か、あるいはユリの親族が、その被害を受けた可能性はある。
そうだとしたら当初の敵意にも納得できる。
逆に、今その敵意を感じないのは何故だろうか。
こちらから何かした覚えは無い。なら、
――ユリちゃんの方で、何かしら考えの方向性が変わったって事か。
敵意を向けられないのは有り難いが、あの頃のユリがほんの少し懐かしいとも思う。
いや、敵意を向けられない方がいいのは事実なのだが。
「……もう一つ、いいですか?」
「いいよ」
即答した。
今は特に不機嫌でもないので、断る理由は無い。
質問は、ある程度は予想できる。
「今の立場やら何やらについて、嫌だな、と思った事はありますか?」
予想通りのものが来た。
ユリくらいの年代のトレーナーからだと、時々投げかけられる問いだ。
今の立場を負担だと思った事は無いか。
答えは一つだ。
「無いよ」
端的に答える。
すると、ユリが小さく笑った。
肩を震わせて、楽しそうに笑う。
ワタルは肩を竦めた。
「……俺がこう答えるって、予想していた?」
「していました。訊いてもこう答えられるだろうな、って。――ワタルさん大人だから。私とは歳が離れているから。だから、まあ素直には喋ってくれないだろうな、って」
ユリは表情を緩めて笑った後、ふと真顔になった。
その表情の変化に思わずどきりとした。
女性は成長が著しい。
決して侮れないものだ。
同年代の十代の少年は分からないだろうが、一回り重ねた年齢の立場から見てみると、気づく事が多々ある。
「でも、本当の答えでもあるんですよね」
ユリは言った。
「さっきの答え。ワタルさん、本当に、――負担とか、嫌気とか、そういうのを感じた事が無いんですね」