トゲキッスに乗って診療所に帰る。
診療所の出入口の前には、ナースキャップを被ったラッキーと、白衣を着た兄のセリがいた。
降り立つ。
「お帰り」
「只今」
「思ったより早かったな」
「みんな頑張ってくれたから」
ラッキーが手を伸ばす。
ユリは六つのモンスターボールを付けたベルトを預けた。
「お願いね」
ラッキーが頷き、診療所に入っていく。
ユリとセリは診療所には入らず、住居スペースの玄関口の方に回った。
背後で、トゲキッスが再び飛翔を始め、数メートルだけ高度を上げて、庭木で囲まれた中庭の中へと入っていった。
ユリは扉を開けた。
ほんわりと味噌汁の匂いが漂ってくる。
そういえば、今日の夕食は味噌汁と御飯と、焼いたほっけと厚焼き玉子と南瓜の煮物だ。
和食。
ユリもセリも共通で好きな物だ。
――ワタルさんの好きな食べ物は何なのかな。
不意に考えて、ユリは口元に苦笑を零した。
今のは、考えようとして考え出た思考ではなかった。
無意識にポンと出たのだ。
ユリは首を緩く横に振った。
靴を脱いで、リビングに入る。
絵本を読んだり、玩具で遊び合っていた小さなポケモン達が一斉にユリとセリの方を見た。
他のポケモンと一緒に、カーペットの上に広げた何かのボードゲームをやっていたリオルの顔にパッと笑みが花咲いた。
『ユリちゃん!』
全力で駆け寄ってくる。
可愛い。
ものすっごく可愛い。
ユリはデレッと顔を緩ませて、駆け寄ってきたリオルを抱き上げた。
「リオル、只今」
『お帰りぃ〜』
リオルが頬を擦りつけてくる。
ユリも頬をうりうりと擦りつけた。
足下にピチューやピィが来て、ズボンの裾を引っ張ったり、抱っこをねだってジャンプしてくる。
可愛い。
もうすっごい可愛い。
「えへへへへちょっと待って順番に、――あうっ!?」
尻を叩かれた。
高さから逆算して小さいポケモン達ではない。セリもこんな事はしない。
なら――。
「サ、サーナイト……」
予想通り、そこには目をきりりと釣り上げたサーナイトがいた。
手に持ったお玉とフライパンを見せつけるように軽く振る。
「あ、はい、手伝います」
とキッチンに行こうとしたら、サーナイトの後ろに、皿や箸を載せた盆を持ったルカリオが見えた。
この診療所では数少ない人間であるユリとセリだけが使うダイニングテーブルに、盆の上の食器を並べていく。
その上には出来立ての食事があった。
つまり食事の準備は終わったという事だ。
「……ええと、御免なさい」
サーナイトの目尻は更に釣り上がる。
違うのか。
ユリは必死に頭を働かせた。何だ。サーナイトは何が言いたい。
冷や汗が流れる。
と、サーナイトの斜め後ろで、キレイハナが左手に何かを掲げて、右手を口に運ぶ仕草を見せた。
目線が合うと、ルカリオがコップにお茶を注いだり茶碗に白米をよそったりして、準備が整っていくダイニングテーブルを示す。
成程。
「つ、作ってくれた御飯、食べるよ。有り難う」
サーナイトはうんと頷いた。当たったらしい。
ユリはほっとして、椅子に座った。
セリが席に着く。
「ユリ、お疲れ様」
「ん。有り難う、兄さん」