「かみなり」
「あくのはどう!」
りゅうのいぶきかと予想していたら広範囲の攻撃で来た。
ユリは咄嗟にあくのはどうを指示した。
ゲンガーの身体全体から黒い波導が噴き出す。
フィールド全体を雷の光が覆った。
眩しい。
ユリは目を細めながら視線を凝らした。
「ゲンガー!」
呼びかける。
それに応じるように、上空にシャドーボールが撃ち出された。
その下を辿ると、ゲンガーがいた。
「大丈夫?」
ゲンガーはくるんと振り向いた。
表情に疲労の色は無い。
よし、とユリは頷いた。
身代わりを出すか、あくのはどうで相殺するか。
賭けだったのだが、上手くいったらしい。
「やっぱり相当にレベルが高いわね」
イブキの声。
確かにカイリューのかみなりにあくのはどうで相殺など、普通ではないというか、稚拙で、単純すぎる。
ゲンガーがまたくるんと振り向く。
その目の表情をユリは読み取り、苦笑いを浮かべた。
イブキに向かって、
「この子はカントー地方からずっと一緒だったんです。それこそシンオウ地方でもバトルをしました」
「そういえば貴女、四地方を旅したのよね」
「ええ」
カイリューがじっとこちらを見据えてくる。
かみなりに対して、あくのはどうを放って自らの身を守って相殺、という荒っぽい戦術に、何か思っているのか。
「カイリュー、はかいこうせん!」
カイリューがはかいこうせんを撃ち出す。
ただ一直線に放つのではない。
首の向きを微かに左から右へと動かす。
そうして破壊光線の軌道が、緩い弧を描くように、薙ぐようなラインを作る。
ユリは目を軽く見開き、即座に頭を働かせた。
一直線に来るのなら、シャドーボールで相殺させ、その隙に掻い潜って至近距離から催眠術という戦法を考えていたのだが――。
切り替えだ。
相手が横なら、こちらは一直線。
「シャドーボールとあくのはどうで突っ切って!」
「は!?」
どこからかゴールドの声が聞こえる。
が、聴覚に引っかかっても意識には上らない。
ゲンガーが走り出した。
自分の身体の前にシャドーボールを生み出し、はかいこうせんの壁に叩きつける。
更にあくのはどうを纏って、はかいこうせんの壁を突っ切った。
「――!?」
無茶苦茶すぎる。ポケモンのレベルを過信しすぎているのか。
しかしゲンガーの笑みはそのままだ。
相変わらずニタニタと笑っている。
ゲンガーはユリの指示を待たず、自分の足下にシャドーボールを撃ち込んで跳躍した。
カイリューの眼前に接近。
はかいこうせんの直後なので、カイリューは反動で動けない。
ユリは指示を出した。
シンオウ地方で、色の欠片と引き換えにゲンガーに教えた技。
「こごえるかぜ!」
氷タイプの技がカイリューの顔面から腹部の辺りまでヒットした。
ゲンガーは油断せず空中でシャドーボールを放ち、距離を取って着地する。
カイリューの巨体がぐらつき――倒れた。
「カイリュー、戦闘不能! ――よって勝者、挑戦者、マサラタウンのユリ!」
あれ、とユリはグリーンの方を向いて呟いた。
数秒の沈黙が下り、グリーンが呆れた眼差しを向ける。
「お前、出身がどこか忘れたのか?」
「ん? ――あ、そうだ。一応はマサラタウンだった……」
思い出してみると、旅に出てから実家にはあまり帰っていない。
診療所を建ててからは一度も、だ。
それにマサタウンには、幼少期に御世話になったオーキド博士もいる。
色々と片付いたら一回帰ろうかな、とユリは思った。