兄さんと診療所に帰り着く。
帰りを待っていたハピナスと一緒に診察室に行く途中、兄さんは私の方に振り向いて言った。

「どういう決断を下すのかはお前に任せる」
「……分かった」

兄さんはいつもの無表情で頷いた。
ルカリオに声をかけられて、私もいつもの調合の部屋に行く。
ゴリゴリと木の実を磨り潰していく。

『どこに行っていたんだ?』
「ちょっと予期せぬ御客様に招かれて」
『は?』
「何か向こうさんが私の事を気に入らないらしくてね。随分と大昔の話まで出して」
『……で、何て返したんだ?』
「思い通りになると思うなよ、って」

ルカリオがあんぐりと口を開く。
いつも冷静な彼にしてはらしくない反応に、ユリの方が驚いた。

「え? 何?」
『……いや、お前にしては随分と挑発的な物言いだな、と』
「そうかな?」
『そうとも』

ユリは薬研を持った手を止めた。
ルカリオは台の上で、パンの生地に似た形状になっていく薬の元を、捏ねて回して、ひたすら捏ね続ける。

「私、……そう、そういうキャラだったような気がする。自分自身だから分かる。すぐに思い出せる。元はこんな奴じゃなかった」
『どういう奴だったんだ?』

ルカリオが相の手を入れて、問いを向けてくる。
手元の生地を台に叩きつける。効能を引き出すためのコツだ。
ますますパンの生地に見えてくる。色は灰色なので、まずそうだが。

「――面倒臭いと思ったら、すぐに離れて、すぐに逃げる。背中を向けて耳も塞いで、知らんぷりして通り過ぎる。そういう奴だったよ。いや、今でもそう」
『そうなのか?』
「そうなんだよ。今まではポケモン達がいてくれたから、ロケット団に絡まれても返り討ちにできたし、だからレッドとの付き合いも続いた。ロケット団にメタメタにされたら、多分レッドを逆恨みしたと思う」
『いや、お前はむしろ相手のトレーナーをボコボコにすると思う』
「まあするけどね」
『するのか』
「するよ。でもレッドをあまり良く思わない感情も湧き出たと思う。……そう。何か面倒な事を持ち込まれるのは嫌なんだ。持ち込みそうな人と関わるのは嫌なんだ。……だから最初に会った頃は、わざと無愛想に、いや、愛想を悪くして接したのにさ」

目頭が熱い。
瞼の中の瞳が溶けてしまうんじゃないかと思うくらいに。

「なのにあっちは関わってきてさ。そしたら、確かにそうではあるんだけど、私の事を罪人の子孫とか、言いたい事を言いたい放題で言う人が来てさ。それがフスベの人っぽくて。直にに言われると、ガツンときた」
『ガツンと、か』
「そう。本当に言われちゃうと、物凄く悲しかった」
『そうか』
「でもさ。向こうからぶつけられて、余計に知ったんだ。あの人はそれくらい大切にされているんだろうな、って。だから悲しさからくる寂しい好奇心が芽生えてしまったよ。あの人はどういう人なんだろう、って、そういう感じでね」

無関心の土に、一つの種が埋め込まれて、悲しさという涙の水が注がれる。
そして芽生えたのは、嫌悪の色で薄く汚れきった、恋心もどきの花だった。


 

 
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