「――大まかに話すと、こんな感じかな」
「……実話、ですか」
「実話だよ。今更フィクションでしたーなんて言うわけないじゃん」

頭の中でざっと要点を整理。
訊きたい事がいくつかある。

「それで、本当に思っているんですか? 私が先祖のような災厄を起こすって」
「恐れてはいるよ。だってさっき語った話は実在の事だ。厄介な立場の女がいて、強く在るべきだった男と少女が腑抜けになり、ドラゴンポケモンには異変が起きて、優れた血統の家系同士で婚姻した祝福されるべき夫婦の間に亀裂が走った。この内のいくつかはもう既に起きている」
「現実に、ですか?」
「うん。一つ目、ナズナちゃんが勉強をサボるようになった。前までは大人しく従順に周りの大人の言う事を聞いていたのに、今ではむしろフスベから出たがるような言動を見せている」
「思春期だからじゃないですか」
「二つ目、これは君が産まれる前なんだけど、旧家の夫婦の間に産まれた子供を、ドラゴンポケモンが拒絶した」
「はい?」
「ベッドの上に寝かせた赤子の傍にミニリュウを置いた。するとミニリュウは赤子を拒絶するようにそっぽを向いたんだ。こんな事は初めてだった。旧家の夫婦は随分と嘆いたらしい」
「それは私のせいじゃないですよね」

ナズナちゃんと関わった事は認めるにしても、実際には関わらなかった事までお前のせいだと押し付けられても困る。
もしや向こうはそれは狙いなのだろうか。
悪い事が起こった原因はお前だと、罪を被せて、鬱憤を晴らすつもりなのだろうか。
もしそうだとしたら、残念だけど、こっちは全く臆したりはしない。大人しく里を去った先祖と同じ対応を取ったりはしない――んだけど……。

「……兄さん、どうしたの……?」
「ん……? いや御免……何でもないんだ」

兄さんの目線がおかしい。
焦点がぶれていて、どこか遠い所を見ている。
考え事に耽っている……のだろうか。
私にとって兄さんは大切な人だ。身内で、味方だ。
その兄さんに何かあると、私の立ち位置や足場は脆く崩れ去ってしまう。
ふ、と。
頭の中に、またあの会話が蘇ってきた。

『フスベの者はドラゴンタイプのポケモンと共に在る。この子はフスベの中でも取り分け古く歴史のある家柄に産まれてね。子供が産まれたら一種の儀式を行うんだ』 
『儀式?』
『儀式って言うと大仰だけど、進化前のドラゴンタイプのポケモンと赤子を一緒に寝かせるんだ。そこでポケモンが懐く素振りを見せたら、その子はドラゴン使いとしての素質有りって判断を下される。まあ一種の恒例行事のようなものでね』
『へえー……』

何で……あの会話を思い出すんだろう。
今ここにナズナちゃんはいない。私が見ているのは兄さんだ。なのにどうして。
いや、あとで考えよう。

「それで。向こうは私に、これ以上関わってくるなと言ってきているんですね。昔話まで引っ張ってきて、何とも遠回しなやり方ですが」
「その昔話が現実になりつつあるから怖いんじゃないのかな。で、君はどうするの?」
「……そこが問題ですね」

そう。
今、私はナズナちゃんの御両親から警告を受けた。
昔話なんて持ち込んできて、さもこちらが悪人のように仕立て上げようとしているけど、客観的に見れば、つまりはこうだ。
ナズナちゃんにはちゃんと勉強して欲しい。
ワタルさんには本来の許嫁であるナズナちゃんにもっと意識を向けて欲しい。
だから、その二つを同時に阻害する私が邪魔だ、と。

「……貴方に訊いてみます」
「何だい?」
「もし先祖の事が無くても。今この時が現状と全く同じ状況だったなら、そちらはどうしますか?」
「そりゃ何か言ってくるに決まってるよ。それこそ今この時のようにね」
「……そうですか」

裏付けは取れた。
昔話があっても無くても、きっと言ってくる事は同じだろう。
先祖の前科があったとしても、きっと物申してきたはずだ。
だってあの二人は、それくらい重要な存在だから。
ぶっちゃけ真正面から直々に「貴女は邪魔です」と言ってくれた方が好感は持てたかもしれない。
というか先祖の昔話が絡まったせいで話がややこしい。

「要は、私はあの二人に関わらないで欲しいと」
「あ、言っておくけど――」
「あくまで警告をしてきているという姿勢だから、別に強制しているわけじゃない」
「御名答」

いかにも貴族のような言い方だ。
私が何かをしても、こっちは警告しているだけだったのに、って言い訳を使ってくる算段なんだろう。
面倒臭い。
もし今この瞬間から私がナズナちゃんかワタルさんと関わった場合、今度はその警告って言葉を使って、こっちは警告したのに言う事を聞かなかったな、という言い分でこちらに何か仕掛けてくるに違いな――、

「あ、いた。キュウ、ちょっと手伝って欲しい事が、――あれ? ユリちゃん、どうしてこんな所に?」

――そちらこそ、どうしてこんなタイミングで襖を開けて現れてくるんですか、ワタルさん。


 

 
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