フスベは排他的で、自らに誇りを持ち、ドラゴンポケモンという力強いパートナーと心を通わせ合っています。
そのためか、当時のフスベでは外から移住してくる人が無く、古い時代から定住している住民のみで発展してきました。
フスベに住む人なら、どこかの代で血が繋がっているから親戚だ。
誰かが言い始めた事ですが、あながち冗談ではないのでしょう。

このフスベに、誰が親戚か分からない、一人の女がいました。
彼女は赤子の頃に、旧家の親切な人に拾われて育てられました。
彼女はフスベの中では異様な存在でした。親戚が誰か分からず、誰と血が繋がっているか分からず、そもそもフスベの血を引いているかどうかすらも分かりません。
旧家の庇護を受け、育ち、成長し、やがて独立した彼女は、独学で学んだ薬学と医学で薬を作り、生計を立てるようになりました。
しかし、それでも女はフスベの中では少し浮いた存在でした。
幼い頃から、大人になった後でも、余所者が嫌いな人から、時々、心無い仕打ちを受ける事がありました。
それでも彼女はフスベにとどまり、薬屋の仕事を続けました。
素性は不明でも、彼女の背後には彼女を拾い育てた旧家の人がいるので、フスベに住み続ける事はできたのです。
薬屋である彼女の腕前は確かでした。フスベのポケモンは彼女が作った薬を使えば、どんな病や怪我でもたちどころに治りました。
幼い頃はどこの馬の骨か分からない子だと疎まれていましたが、信頼を得た彼女は、フスベの人達に次第に受け入れられるようになりました。
彼女は生温く平穏な日々を緩やかに過ごしていました。

このフスベに、最も古く最も高貴な血を引く、一人の男がいました。
彼は今までに何人もの長老を輩出した、とても有名な家系の嫡子として産まれました。
彼は幼い頃からすぐに頭角を現すようになりました。
同年代の子供達の代表格としてリーダーシップを発揮し、纏め上げ、ポケモンバトルの腕前は大人でも敵わないほどであり、当時の長老でさえ手こずっていた力強いカイリューが彼の事だけは認めました。
彼を背に乗せ、大空を飛ぶカイリューを見て、次の長老を決める権利を持つ旧家の人達は、彼を次期長老に据える事を決めたそうです。
誰よりも強く、誰よりも気高く、誰よりも誇りを抱く彼は、子供から青年へと成長するにつれ、やがてフスベの誰からも認められるようになりました。
彼こそが次期長老に相応しい、と誰もが囁き合うようになりました。
あるいは彼も、己こそが次期長老に相応しいと思っていたのかもしれません。
いつも彼は自信に満ち溢れた態度を取っていて、ポケモンバトルでも他のどんな分野でも、負けた事はただの一度も無かったのですから。

二人の道はどこまで行っても交わらないように見えました。
フスベの出身かどうかすらも分からない女。
最も古い血筋を持つ、純血で生粋のフスベの男。
二人が一体どのようにして知り合ったのか。そしてどんな言葉を交わしたのか。
誰も知りません。
周りの誰かが不意に気づいた時、二人は惹かれ合っていました。
そして、それを良かれと思う人は、残念ながら少なかったのです。


 

 
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