*女体化狩屋はサッカー部のマネージャー
*蘭丸が変態
天馬なんて女とのエッチどころか一人でシた事あるのかって疑わしくなるくらいの無邪気で暢気なガキなのに、俺がオカズにしている可愛い可愛い超絶美少女の狩屋マサキはそんな天馬の事が好きらしい。
天馬なんかより俺の方が大事にしてやれるし、愛してやれるし、アッチの方だって満足させてやれるのに。
ケーキより甘い言葉を吐いて、薔薇の匂いより甘くベッドに誘い、キャンディより甘く快感でどろどろにして、チョコレートより甘いものをぶち込んで、マシュマロより甘く溶かしてやるのに。
今日も彼女は天馬にタオルやドリンクを差し出しては甘く煮詰めたミルクのように白く滑らかな頬に砂糖より甘い笑みを浮かべて、アセロラゼリーを載せたように薄く紅潮さえしている。
可愛い。凄く可愛い。
町のショーウィンドウに貼られたポスターでマカロンを持って微笑むモデルより美しい。
つーか俺がマカロンみたいに食べたい。
いや、一口でパックンチョと食べてしまうと、確かに俺の味覚は満足できるかもしれないけど、一口で終わってしまうという欠点がある。
なら少しずつパクパクとゆっくり食べるべきか。
あるいは飴みたいにぺちゃぺちゃと舐め回って、ゆーっくり消費するか。
「あの、霧野先輩」
「ん?」
びっくりした。
杏仁豆腐みたいな白い肌でできた飴細工の天使のように可愛い美少女が、まるで人間のように動いて近づいて話しかけてきた。
いやいや狩屋は人間だっての。危ない危ない。
大丈夫か俺の思考回路。
「何だ?」
「……タオルとドリンクです。どうぞ」
「お、悪い」
受け取る時、狩屋の指先に触れた。
かき氷のようにひやりと冷たい。
俺の白いミルクでもぶっかけたら少しはあったかくなるんだろうか。
――俺のミルクぶっかけられて、悶える狩屋。
可愛い。エロい。見たい。
ベッドに押し倒して、ソーダシャーベット色の髪を撫でながら、邪魔なラッピング……じゃない、服を脱がせる過程も甘いムード作りには大事だよな、ボタンを一つ一つ外して服をはだけさせて。
ミルクが煮詰まった肌を撫で上げながら、最上級ラッピング……じゃない、でもランジェリー姿も見たいなあけどスポブラだろうなあ、下着を取って、恥ずかしげに俯く狩屋を口説きながら。
夢の象徴の柔らかい胸を優しく揉み、もう片方の手は太腿に伸ばしつつ、あんまり美味くないだろう俺を受け入れさせるために念入りにほぐして、バニラエッセンスを一滴落としたように潤んだ狩屋の目を見つめて――。
囁く。
頂きます、と。
「霧野」
「何だ神童」
「鼻血……出ているよ」
「あ」
やっべ。狩屋は俺の顔が好きなんだから気を付けねェと。
女顔って言われ続けてはいるが、まあだからこそ中性的なこの美貌には結構自信がある。そのイメージは崩れないようにしないとな。うん。
「あとさっきから君がむっつり黙り込んでいるものだから、狩屋さんが怖がって……ほら、あそこ」
と神童が指差す先は、ベンチよりも遥か遠い校舎の横だった。
そこに、ちょんと狩屋が突っ立って、こっちを見ている。
ああもう可愛いなあ。何かおろおろしてこっちを見ている。
喰われたいの? 喰われるかもって怯えてるの? 大丈夫、優しくぺろっとイくから!
「霧野、そんな目で睨むから狩屋さんが怖がっちゃうんだって」
「は? 睨んで……?」
「何かギラギラしている。円堂監督は平然としているけど、他のみんなもおっかないねって結構言ってるぞ」
マジか。俺は狩屋の事を捕食対象として見ているんだけど、何も知らない他の奴からはそう見えるのか。
円堂監督は、まあ、その辺は流石は既婚者って言うべきか。
「じゃ、狩屋に謝ってくる」
「待った」
がっしと肩を掴まれた。何でだ。
「何で止めるんだよ」
「遠ざかる直前、狩屋さん泣く寸前だったんだ」
「え? 狩屋、泣いてんの? なら尚更慰めないと」
「それでもお前から使ったタオルと空になったドリンクの器を受け取っておきたかったから我慢してお前を待ってたんだけど本当に泣きそうになったから、見かねて俺が『受け取っておくからベンチに戻ってもいいよ』って声をかけたんだ。そしたらベンチどころかあんな遠い所に行っちゃって」
「なら尚更迎えに行かないと」
「話を聞いている?」
「聞いてる聞いてる。あれだろ。狩屋が俺の事を待ってくれているんだろ。スイーツとして! 最後のミルクを投入されるために!」
「……狩屋さん! 今すぐそこから逃げて――!!」
「おい神童、何で――ちょっ、待て狩屋! どこに行くんだ、俺とお前の御菓子の家はそっちじゃなくてここだぞ、ほらここ、俺の腕の中!!」
俺は止める神童の腕を振り切って駆け出した。
途中に何か肉の塊っぽい人間みたいな物がいくつも立ちはだかるが、避けるのは面倒なので全部纏めて走る勢いのままにぶっ飛ばす。
一年の話だと狩屋は運動神経が良いらしいが、俺だってサッカー部員として毎日走り込みをしている。追い着く自信はある。
腹の底から湧き上がる衝動を満たすために、俺は背中が見えてきた極上のスイーツに向かって手を伸ばした。
腕を掴む直前。
こっちを振り返る狩屋の、黒糖ときなこの色の瞳から、スイーツには大事な水分が、一滴、零れ落ちたような気がした。