皇国の奴らとの戦闘も大分慣れてきた。
もう何十回も戦っているのだから、身体が覚えたと言う方が正しいかもしれない。
相手を見て全域を確認し、銃の向きを確認しながら大振りな角度を保ちつつ近づいて弾丸を避けながら接近。
あとは拳か足を振るうだけ。
血が弾けて花のように咲く。
ほとばしるように咲き誇る赤色を見て、花かと思い、ケイトへの御土産に持って帰ろうと手を伸ばしたら、摘み取る前にそれは破砕した。
雨の滴のように降り注ぐ。
血。
悲鳴。
怒号。
声がうるさい。びりびりと聴覚を叩いてくる。
うるさい。本当に。
苛立ちに任せるままに裏拳を叩き込むと、何かを砕いたような感触を得た。
力を失ってこちらにもたれかかってくる皇国兵の身体を無造作に突き飛ばし、
「――ケイト? 聴こえるか?」
耳元のCOMMに意識を傾ける。
数秒後。微量のノイズ越しに、彼女の声が来た。
『――はいはい聴こえるわよ。そっちは?』
「今、交戦中だ」
口元に自然と笑みが浮かぶ。ケイトの声だ。
自分を狂気に駆り立て、正気に戻してくれる、唯一の存在。
「なあ、帰ったら何をしようか?」
『ん? そうね――』
血が飛び散る。制服にかかる。朱色のマントなんて着けなくても、もう真っ赤だ。
血が顔にまで飛び散るが、もはや血痕なんて雨の滴のような感覚でしかない。
制服も身も血でどろどろになっていく。
「一緒にシャワー浴びないか? 皇国の奴らの血が鬱陶しい」
『そうね。言われてみりゃあたしも血みどろだわ。じゃ、こっち先に帰るだろうから用意しとくね。怪我してクイーンやレムに声かけられても断っとく事。ケアルはあたしがかけてあげるから』
思わず、くすりと微笑んだ。
「大丈夫だ。分かってる」
言いながら拳を叩き込む。何か柔らかい物を潰したような感触があったが、それすら意識に上らない。
視界はそのまま。だが聴覚が彼女を求めて、COMMからの声だけを脳に届ける。
聴覚が少し狭まっても、問題は無い。
身体が勝手に動く。
大人の皇国兵が憐れむくらいに戦場で敵を殺したから――だろうか。
あるいは、この血の花を、愛する彼女に捧げるためか。
「供物だ」
皇国なんて、白虎など、所詮、将来の朱雀が勝利と平穏と繁栄を得るための土台に過ぎない。
ここで踏み潰す。
そして、彼女と過ごす、かけがえのない日常に捧げる。
まずはこの作戦を成功させるべく、エイトは駆け出した。