あの教室で眠ってから、数日、数ヶ月、数年。
いや、時を数える意味なんて無いのかもしれない。
ふと目が覚めてみると、周りにはレムとマキナを除く0組の面々がいた。
ここがどこなのかも分からない、どこに行けばいいのかも分からない。
迷子のように困り果てた0組の前に、そいつは現れた。
混沌の名を持つ神が、鞭のように尻尾をしならせ、太い腕を振り回し、動き回る戦士達を振り払う。
しかし数多の戦場を駆け巡ってきた0組の面々は、敵、という分かりやすいカテゴリーに当て嵌まる存在を認めた途端、ただただ困惑するしかなかった頭の中がゆっくりと冷え、落ち着いていく、もはや心地良い感触を味わった。
戦いこそが、全ての価値。
戦ってこそ己の価値を見出せる。
目が覚めた直後は迷子のように惑うしかなかった面々は、カオスという相手を認識した途端、むしろ何かしらの道標を見つけたように表情を引き締めさせ、唐突の奇襲にも臆する事無く冷静に対処した。
身体そのものがとにかく大きいカオスに、とにかく攻撃を当て、とにかくダメージを蓄積させていく。
ここには白虎の兵のような弱いだけのまどろっこしい存在はいない。
ただ単に巨大な相手に攻撃をぶち込めばいい。
実に爽快で単純な話だった。
エースのカードが舞う。その向こう側から、ナインの槍が、キングの銃弾が、トレイの矢が放たれる。
カオスの身に槍が突き刺さり、銃弾が命中し、矢が食い込む。
しかし規格外の体力と体格を持つカオスは全く揺るがない。
その口から、地獄の怨嗟のような声が響き渡る。
びりびりと震える空気に鼓膜までもが痛めつけられそうになった時、その轟の中に、一筋の音色が奏でられる。
デュースの笛から癒しの音色が流れ、傷を癒していく。
最初に気を取り直したのはサイスだった。地面に突き刺し杖の代わりにしていた鎌を引き抜くと、距離を詰めて再び振りかぶる。
その背後からセブンのウィップがしなやかに伸び、頭上から潰さんと振りかぶられていたカオスの手を傷つける。
サイスは鎌を振るう。傷は浅い。血も滲む程度だ。しかしダメージを負わせなければどうしようもない。
ある程度まで、一箇所に集中して傷を付け加えた所でサイスは唐突に側転を行った。
サイスが退いた後の空間にケイトの魔装銃の弾丸が通過し、幾条もの切傷の上からダメージを重ねる。
更に至近距離まで間合を詰めたエイトの拳と、ジャックの刀と、クイーンの剣、シンクのメイスが連続で叩き込まれる。
カオスの口から声が漏れる。
悲鳴、ではない。
吼えるのだ。
意図せず予期せず、しかしこの闘争に相応しい力を持ったイレギュラーな戦士として招かれ、そして今こうして戦っている彼らに対して。
その声を浴びて、0組は戦場を駆ける。
いつしか夢に見た平和な日常を、忘れ去って。