「マキナ、ねえ、こっち来てみて」
レムに手招きをされ、マキナは素直に彼女の元に歩み寄った。
ここ、と、レムが自分の隣をポンポンと叩く。
マキナはまた素直に、そこにすとんと腰を下ろした。
横を見る。
レムはただただ穏やかに微笑んでいた。
「花、綺麗だね」
マキナはレムの視線の先を辿った。
その先には一本の巨大な木があった。
太く太い幹は三メートルほどもあるだろうか。
そこから支流のように何本もの枝が分かれ、その枝も太く長くどこまでも伸びている。
何かの魔法なのだろうか。その枝の先から、淡い色味の飛沫のような光がいくつもいくつも散っていた。
「桜っていう花なんだって」
「桜……?」
確か本で読んだ記憶がある。東方の土地で咲く木の一種だ。枝の所に蕾があり、それが膨らんで咲くと、その名の通りの色の花が咲く。
写真や挿絵でしか見た事が無い。
本物を見るのは初めてだった。
「……マキナ」
ふと、半身に温もりを感じた。
傍らを見下ろすと、レムの身体がそっと密着していた。
腕から伝わる柔らかさと温かさに、マキナの頭の中に火が走る。
「レ、レム……?」
まごつくように呟くと、レムは穏やかに、
「マキナ。ここなら、ずっと一緒にいられるね」
言われて、マキナは気づいた。
確かにここならレムとずっと一緒にいられる。
周りにあるのは、今、自分達が座っているベンチと、桜の木と、絶え間なく空中に舞い散る桜の花弁だけ。
自分達は制服を着ているだけで武器は持っていない。
敵も血飛沫も何も無い。
ただあるのは彼女との世界だけ。
「ああ、そうだな」
満たされる思いで呟いてから、マキナは不意に気づいた。
――俺も俺の言葉を出さないと。
レムからの問いかけに答えるだけでは駄目だ。
「……俺も……レムと一緒で、嬉しいよ」
喉から捻り出せたのは、ありきたりでシンプルで、使い古されたような言葉。
それでもそこに確かに込められた真心と愛に、レムは嬉しそうに笑った。