アギトを目指すのが俺達、候補生。
アギトになるのが候補生の目標。
俺達の到達点。
だけど、戦争が始まってからは、アギトを目指して勉学に励む候補生も、戦地に送り込まれる事になった。
俺達の存在意義は何なのだろう。
単なる戦争の駒か。それとも将来有望な人材か。
あるいは……いつか築かれる、アギト生まれる未来への礎か。
レムは大切な人を守りたいと言った。そのためにアギトになりたいと。
俺もアギトになりたいと、思う。
大切な人を守るために。
いや……大切な人を失って、そしてその記憶を忘れないために。
だけど、ここのところ、俺はこうも思うようになった。
戦って、疲れて、みんな必死に頑張っているのに、それでも世界からは戦争が無くならない。
2組の名簿を見ても、大半が思い出せなくなった。
周りの候補生達も、みんな戦わなきゃいけないのは分かっているけれど、それでも戦いは怖いし、痛いし、何より辛い。
0組みたいに飛び抜けた戦闘センスや慣れは持っていない俺は連戦の中で徐々に疲弊し、やがてふと一つの事に気が付いた。
候補生達は、みんなは、アギトになる事を望んでいる。確かに。
でも今は別の思いを抱いている。
伝説のアギトに、現れ、来て欲しい、と。
俺はその考えを責めない。むしろ歓迎する。
確かにこの状況を打破できる者がいるなら現れて欲しい。
そして、終わらないこの戦いを、その圧倒的な力で終わらせて欲しい。
もう疲れた。きっと世界中の人々がそう思っている。
だが、救いとなるアギトはいつまで経っても現れない。
だから、それに少しは近い、ルシになる事を選んだ。
別に俺はもうアギトになる事なんて望んでない。
ただ確かに人ではなくなったこの身を使って、この世界を、死者の記憶を無くしてしまうというクリスタルの恩恵を、どうにかしたかった。
もがいて、あがいて、息苦しくて重たくて。
でも死にたくないから、白虎のルシになって力を得て、朱雀兵の人達をも殺した。
俺は俺のやり方を貫く。
もうアギトの誕生は待たない。
アギトになりたいとも、前ほど強く思わなくなった。
ただ、レムと、クラスメートの0組の記憶だけは、忘れたくない。守りたい。
それだけは確かな事実だった。
だけど、俺はやっぱり間違えていたらしい。
まさかレムが朱雀のルシに選ばれるなんて思いもしなかった。
俺達は戦い、そして――――薄れゆく意識の中、あの日の事を、思い出した。
大切な人を守りたいと言っていたレム。
「マキナ」
「ん……何だ?」
「ずっと一緒にいようね」
ほんのりと顔を赤くしながら放たれた一言に俺は絶句し――何も言えなかった。
顔を赤らめてちょっと上目遣いで見上げてくるレムが可愛すぎて、心臓と肺が締め付けられて、息も上手く吸えないし喉から声も出せないし。
だけど、自分の顔がカアッと熱くなったのは分かった。首の血液が一気に沸騰して、まるで風呂に入ってのぼせ上がったような感覚を得たから。
何か言いたいのに何も言えない。気の利いた口説き文句一つすら出てこない。うんともすんとも言えないままだ。
けど、レムは、俺の答えを読み取ってくれたらしい。
というより、まごつく俺の態度が、もう答えそのものだったんだろう。
俺の大好きな、柔らかくて温かい微笑を浮かべてくれた。
もうアギトは求めない。
そんな思いでここまで来た。
だけど、駄目だった。
俺の力じゃ、無理なのかな。
誰も守れないままなのか。
レムも、自分も、0組のみんなすらも。
誰も、守れない……まま――……